7
元犯罪捜査の専門家は、被害者映像に顔を歪める。
“信じられない……被害者は冷静さを欠き過ぎだ。本来入ってはいけない区域に入り、勝手に行動して、世の中に貢献したつもりでいる。情報を改めて聞き直すべきだ。失踪者情報にある本人の写真は見ての通り、端整で、一般的な髪色をした若い医師”
細身で焦げ茶色の短髪をした、失踪当時31歳の男性は、この地域から南下したところにある大病院に勤めていた。子どもを授かった途端、姿を眩ませている。
今でも妻が懸命に捜索依頼を続けており、先日、夫に向けたメッセージを挙げたところだ。彼がいなくなるまでは、アウトドアな性格の2人は、自然の多い所へ出かける事が多かった。彼女が野生動物保護調査員なだけあり、プライベートでも自然の中に潜む命を視て、単純にそれを可愛がり、楽しむ時間を過ごしていた。
失踪して半年以上が過ぎた上に、この様な騒ぎが絡んだ末、夫の情報が最悪の形で浮き彫りになった。妻の状況はどうなのか、どの様な気持ちでいるのかと、世間の方が大きく騒いでいた。激しい情報の波風の中、彼女が落ち着いて現れる隙などなく、憶測だけが飛び交い続けている。
今や、情報提供を一般人に促すためのMISSING PERSONに記されている連絡先はクローズされ、警察署への連絡先1本に絞られていた。連絡の大半が悪戯で占められ、妻はいつしか、テレビや取材に顔を出せなくなった。
しかし、情報を欲しがる者はあらゆる手を尽くしてでも、先を追い続けた。妊娠している彼女は定期的な通院があり、その時機を狙おうと、カメラを片時も放そうとしない。これに関しては、既に数人が補導されている。彼等にとって、ただの妊娠ではないという事態はウマいネタだった。母体の中で歳をとり続ける奇妙な子どもの未来を、知りたがらない者はいない。
元犯罪捜査の専門家は、失踪者情報を見た後に言葉を熱した。
“彼が容疑者だと仮定した場合、何故、ハンターにだけ集中しているのか。他にもキャンパーがいるのに、だ。ハンターに対して恨みがあるのかどうか、という事になる。もう一度言うが、これは仮説だ。
捜査をするには、それこそ街中の美容院、染め液やコンタクトを販売している店を調べるべきだろう。銀髪にするには、そういった行動を取らなくてはならない。
この様な調査は全て警察が執り行う事であり、市民の皆さんは決して、今回の被害者の様な危険な行動は慎むように。加えて、失踪者の家族への負担がどういうものかを、よく考えるようにして頂きたい”
「気が早いハロウィン? だって、失踪した男の人が狼男だなんて、何でそう呑気に言えるの? その人は旦那さんで、お父さんで、奥さんが必死になって探してるのに。揶揄うにもほどがある。酷いニュースだわ」
ソニアが零しながら、オーバーナイトオーツを混ぜる。
「アクセル、本当に気をつけなさい。襲われるのに、性別も歳も関係無いのよ」
「学校か車かライブハウスにしかいない。別に平気さ」
母は溜め息を吐くと、アクセルが淹れた1杯を、そっと口に含んだ。
-----------------------------------------
サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め
気が向きましたら是非




