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出て行く支度を終え、いつものスタジアムジャンパーを手に部屋を出ると、朝食に入る。休みの母はリビングで寛いでおり、ホットサンドとストレートティーを傍らに、テレビを見ていた。
アクセルは母と短い挨拶を交わした後、トーストを用意していく。キッチンには半量ほどの紅茶が入ったポットがあり、鮮やかな色が陽射しに反していた。アクセルはそれを少し貰おうと、母に声をかけた。
「あら珍しい。レイラに教わったのかしらね」
「……紅茶派か!?」
アクセルは大きく振り返ると、母はソファーと同化したまま、知らない、と手だけで示す。
「香りが高いでしょ。それがいい目覚めに繋がって、集中力が高まる効果があるの。それに、美白化粧品に配合されている成分と同じものが含まれているから、飲み続けるといいんだって」
妹が階段を下りながら解説を挟んできた。メイクは控え目になっているが、ヘアスタイルは相変わらず崩れを知らない。ソニアは、兄が手にしていた紅茶のポットをあっさり奪うと、優雅に注いだ。
「極端な奴だな。早々に得たばかりの知識だけで踊り狂うところ、見直した方がいいぞ」
それに構わず、ソニアは、兄の手元にあるインスタントコーヒーに眉を寄せる。
「またミックスジュースにするつもり?」
そこへ、母がソファーからカップを突き出した。
「アクセル、それ美味しいんでしょ? 1杯入れてよ」
ソニアは母に首を竦めると、昨夜の内に準備しておいた例の朝食を冷蔵庫から取り出し、リンゴやオレンジを投入していく。
アクセルは、自分の分は後にし、母のカップにインスタントコーヒーを半量、紅茶を半量淹れた。香港発祥の鴛鴦茶は、ユンヨンチャーと呼ばれている。カフェで知り、個性的で惹かれた。日本語ではオシドリと読み、オシドリ夫婦という言葉から、この組み合わせが仲睦まじい様を表すという。甘さや割り方によって、自由な味を楽しめる飲み物だ。アクセルは、たまたま妹が朝食のために出したハチミツを加え、味を決めた。
そこへテレビが、コマーシャルの賑わいからシリアスな音に打って変わり、モーニングショーが始まる。
“またも、ハンターが襲撃されました”
アナウンサーの強みを含んだ声で、近辺の住所を上げられ、3人の動きが止まる。
“立ち入り禁止区域で、ハンティングを行っていた2人の50代男性は、救急搬送され、命に別状はありません。
目撃情報によると、銀に光る目を持つ凶暴な鳥類、小動物、コヨーテに襲われた。更には、失踪者ステファン・ラッセルと思われる人物にも遭遇した、と――”
アナウンサーの映像から、搬送される最中の被害者の映像に切り替わる。映ったのは僅かだが、顔や首、手に引っ掻き傷や噛み痕を負った、見るに恐ろしい被害者は必死になっていた。
“あいつに違いない! 見たんだ! 髪と目はシルバーに光って、まるで狼男だ! 歯を立てて唸りながら襲ってきたんだ、本当だ!”
“そいつが動物を操ってた! 吠えるなり、みんな急に光に変わっちまって、綺麗サッパリ消えた! 音声だってある! 完璧な証拠だ! さっさと捕まえてくれ!”
映像が再びスタジオに切り替わると、今年の初めにニュースになった失踪者の情報が拡大される。それは、街でもウェブでも見かける、MISSING PERSONのチラシと同じものだった。
※MISSING PERSON=失踪者・失踪者情報
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サスペンスダークファンタジー
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