4
駆け回る小動物達に続き、降り立った鳥類は、髭の男に群がり、啄みにかかる。
「このバケモン! てめぇがその気なら、こっちも狩るまでだ!」
男は木に押し当てられたまま抗うと、その首を掴む彼は、細い威嚇の声を漏らす。
髭の男は、小動物や鳥類に迫られる中、どうにかスマートフォンを抜くと、SOS機能を作動させた。この場から今の状況まで、何もかもが警察に流れていく。そこへまたしても、鋭い銀の光が視界を覆い尽くした。接近したコヨーテが甲高い遠吠えを上げ、スマートフォンを叩き割る。
「何しても無駄だ! てめぇの証拠は頂いたぞ!」
歪な襲撃も余所に、男は木に擦り付けられながら馬鹿笑いした。それに振り向いた彼は、獣の吠え声を放ちながら眼を剥き出すと、同時にライフルを片足で蹴り上げて掴み、再びその男に銃口を向けた。
『ほう……やっと殺すのか……』
コヨーテの淀む様な笑いを含む声に、彼は一度瞬きすると、銃口を下ろす。
「見てみろ! でっきっこねぇ!」
そして男は、彼に唾液を吹っかけ、急所を蹴ってやる。が、それでも彼はびくともせず、男の表情は強張っていく。
と、男は落下した。その途端、こめかみに一撃が走り、視界が飛ぶ。倒れた拍子に、背中、腰、下半身を蹴られ、悲鳴を上げた。端で追い詰められる髭の男は、助けようと、どうにか這い進む。
彼の攻撃の最中、数頭の同じコヨーテが合流すると、笑う様に吠え続けた。混ざる2人の命乞いが遠ざかろうと、彼は足を止めずにはいられなかった。ところが
“殺さないで”
誰かの声に、身体が締め付けられた。
意識が朦朧とする2人は、彼の急な静止に目を見張ると、腰を抜かしたまま後ずさる。
コヨーテ達は、つまらなさそうに騒ぎを止めると、銀の輝きを増し、煙の様に舞った。そのまま、硬直した彼を撫でる様に這っていく。まるで意思を持つ様な動きをするそれは、彼が浴びた唾液や血液を拭うと、ライフルや、攻撃していた男にも柔らかく触れていく。
未だに集る小動物を、髭の男は必死に振り払っていた。その騒ぎに身体の縛りが解けた彼は、ふと、2人を見下ろす。そして、群がるのに夢中な獣達に、強く吠えた。散弾銃の様に散る声に、獣達は瞬く間に銀の輝きに消える。
黒い空間に降り注ぐ不釣り合いな光の雪に、彼は、導かれる様に静かに歩き出した。それに、全身に打撲を負った男が呻きながら声を張る。
「逃げ切れると思うなっ! こっちは、しっかりっ……てめぇを押さえたっ……覚悟してろっ!」
最後は、苦痛混じりの笑みをさらした。その隣でぐったりする相方は、遠ざかる歪な彼に、ふらふらと首を振る。
「とっととしょっぴかれろ、裏切りモンっ! 奥さんが何て言うか!」
霧に吠え飛ばす様に、言葉は消えてしまう。
聞こえていないのか、彼は、まるで終わりのない薄闇の中を進んでいく。木々の間から射す月光が髪を這い、銀の光の波を魅せると、やがて、見えなくなった。
-----------------------------------------
サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め
気が向きましたら是非




