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しかし、小動物の群が眼を剥いて威嚇し、行く手を阻む。
「ひ、光ってやがる!」
「見惚れてる場合か! さっさと駆除しろ!」
髭の男が怯む横で、相方が照準を覗いた。眼を銀に輝かせて接近する兎やリス、オポッサムが奇声を上げた瞬間――ライフルに巨大な何かが喰らい付いた。
転倒したその男は目が眩む中、ライフルを失くした。視界が戻らず、震え上がる。そこに、先程よりも耳を貫くコヨーテの威嚇が轟いた。ライオンを彷彿とさせるそれに、2人は精神を乱される。
「デカイ! 牙から何か垂れてやがる!」
水銀に似たそれは唾液なのか。コヨーテは、歯を食いしばりながら上体を屈め、今にも飛びかかろうとする。
「バーナーがある! 脅せ、脅せ!」
転倒した男が忙しなく促すと、何かに襟首を掴まれ、どこかへ引き摺られていく。おらび声の尾を引きながら、背後の何かを掴もうと、両腕で宙を探り続けた。そして、太いものに触れた様な気がすると、瞬く間に身体が浮かび、背中をどこかに叩きつけられた。その手は淡々と胸倉に移ると、男は背中に激しい幹の摩擦を受け、ハンチング帽が落ちた。
「よせ、殺すな、頼む! 何でも聞く!」
恐ろしいあまり目を開けられず、命乞いだけが先走るも、銀の射光が拭い消してしまう。男は痙攣に抗いながら片目を開くと、息が止まった。銀髪をした歪な者に、首を片手で軽々と持ち上げられていた。
男は顎から背骨までを震わせる。酸素を求めて、銀髪の彼と思しき者の腕にしがみついた。しかし、その腕は幹の様に硬い。
「は、放すんだっ……な、ほら、話しをしよう!」
親しみやすさをどうにか絞り出す男に、彼は動じないまま、まじまじと首を傾げる。柔らかに揺れる髪が薄い月光に触れ、光線を見せた。見開いたままの眼には、縦筋の瞳孔が刻まれ、獲物を貫いている。鼻をひくつかせ、漸く重い瞬きをすると、隅々まで男に見入った。
その仕草に、男の笑みが消えていく。顔を近付けられるほど、睫毛や産毛からの光に目が細まる。
彼が空いた腕を伸ばすと、炎が立つ様に、同じ被毛をするコヨーテがライフルを咥えて現れた。
「おい待て、早まるな! 話せばわかる。聞け、こんな事はすぐ止めろ。もう散々やって、気が済んだろ?」
それでも彼は、顔色一つ変えず、いよいよ手にしたライフルを男に向けると――
「イかしたコートだな、若造!」
連れの髭の男の怒声と同時に、アーチェリーの矢が放たれた。
その音が迫る刹那、彼はライフルと入れ替えに、射抜かれる数センチ手前で矢を掴み止める。と、小枝を折る様に落とした。
※オポッサムは、モモンガとフェレットを組み合わせた様な見た目で、小さい哺乳類です。フクロギツネ、フクロネズミ、子守りネズミなどと呼ばれています。
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