表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
Harvest Moon
33/184

31




 幼少期は姉とルームシェアをしており、当時こそ、よく喧嘩をした。互いに綿密に境界を張り、越えたかどうかで揉めてきた。姉の扱う物が変われば匂いに悩まされ、友人との関わり方が変わると長電話に悩まされた。そして姉が1人部屋を持つようになると、次は妹とのルームシェアに変わった。そこでもまた、姉と同じ様なルールが設けられ、苦しめられたものだ。だが今は、やっと優雅に過ごせている。




 木製のありふれたデスクに立てたライトを点けると、黒を基調とした、型の古いミニコンポが出迎えた。その横には、ブルースが中心になって製作してくれる音源と、好みのアーティストのCDが並んでいる。どれも火が出るくらいに聴き倒していた。




 高校に上がってすぐの頃は、壁中がアーティストのポスターで埋め尽くされていたものの、今は白い空間に変わって大人しい。本棚のトップは、外へ持ち出す必需品のためのスペースにしており、活躍した愛用のマイクとサングラス、ウォークマンを並べた。




 マイクは、高校に上がってすぐ、掃除やペットの散歩代行のバイトをして入手した。ダミーではない、ブランドロゴが入ったものが欲しくて必死だった。見た目の印象は様々だが、そこに魅力を感じている。周囲で誰も使用していないという点こそが良かった。




 一般的なハンドマイクの倍の重さがあり、そこが一層、大事に扱おうと思わせてくれる。ボリュームが大きく入りやすく、声量があればあるほど様にもなる。リアルなサウンドを伝え、吹かれにも強い。接近する事で低音が強調されやすくなる、近接効果も出にくくなっている。見掛け倒しに思われがちなアイテムだが、惹かれる性能が揃っていた。




 機器に最新の物を取り入れたい気持ちはあまりなかった。高価であり、親にも縋りにくく、バイトをし過ぎて活動ができなくなるのも嫌だった。古臭いと言われる事を寧ろ貫き、それらしい魅力を出したい。それがバンドの考え方だった。

 とはいえ、最新システムに興味がない訳ではない。ブルースの家には、彼の父の影響で流行りのオーディオ機器が揃っている。訪問した際は、大抵それらに夢中になる。




 荷物を片付けながら、昨夜に比べてイマイチだった新しいバラードを鼻で歌った。メンバーと情報交換をした事で新たな歌詞が浮かび、もう一度並べ替えようと、前向きになり始めていたその時――




 連なる犬の吠え声が、窓を振り向かせた。否、これは間違いやすい草原狼(そうげんおおかみ)、コヨーテのものだ。甲高く、子犬が鳴いている様に聞こえ、遠吠えはメロディックに上がる。とはいえ、狼の種族につき、群れて大きな獲物を狙う肉食動物であり、草や昆虫も食べる。




 風に当たろうとベッドに乗り、かかったままのレースカーテンを寄せて窓を持ち上げた。








 風の騒めきに微かな虫の声や草木の香りが混ざり合うと、吠え声がまた、今度は縫って紛れてきた。




 ベッドの柔らかさに腰を引き留められてしまう。窓枠に肘を預け、なんとなく斜め上に空を仰いだ時、満月と目が合った。



「But it’s been so far……Like a lonely harvest moon......」



 コヨーテの鳴き真似の様に、けれども、どこか悲し気に口ずさむと



「珍しいのね。随分ムードな曲じゃない?」



 口が固まった。その声に、目が自ずと左右しては、そっと流れていく。と、向かいの窓で、彼女が小さく歯を見せた。



「レイっ――!」



 頭部の衝撃に視界が霞み、彼女が余計に遠ざかるところ、追いかける様に窓から身を乗り出した。








※そもそも宿題の量が凄いらしく、バイトなんてしてる余裕もそんなにないとされています。ディスカッションやクイズが多いので、宿題と予習はしておかないと厳しい評価になるみたいです。


※それでもバイトをする学生もいます。よくある飲食などの接客業もあれば、文中にある散歩代行や、ペットの排泄物処理といったものもあるんですって。ただ時代もハイスペックになってきてますので、最近はそんな働き方をする人が多くいるのかどうかは不明です。日本では聞かないバイトという事で、本作では取り上げました。



-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お疲れ様です♪ アクセルも大変な時期があったんですね! マイクを買うためバイトなどしていたとは( 。゜Д゜。) マイクにも良いマイクとかあるのは分かりますが、一体いくらなのか、興味があります((o(^…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ