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Harvest Moon
9月の満月をいい、収穫の月です。
本章は32話。
人物や事件の基本情報を「収穫」していきます。
秋が訪れて2週間。収穫の月が、植物の彩りが陰る冷えた夜を、仄かに照らしている。夏よりも心地よい風の中、歩幅が軽やかになるほどに、胸が躍った。
鼻から抜ける緩やかなハミングは、住宅地の通路の茂みから微かに鳴る虫のオーケストラに、ほどよく馴染んでいく。木の葉の摩擦が、未だ歌にならない歌に、掠れたアクセントを付けた。
最新の機械に頼るのも悪くはないが、レトロなスタイルが好きだった。ウォークマンから伸びるイヤホンコードを伝って届く、相棒のギタリストが録音した新曲に、ただただ、紡いだ想いを乗せていく。
ギターを背負い直した拍子に、暗めのブルネットの髪が音色に酔う様に、下りた瞼を撫でた。演奏はそこそこであり、ただ和音を奏でて声を乗せる。その程度の技量であっても、別に気にしない。極端さを持ち合わせたバンドメンバーの1人である自分もまた、イカすだろう。
「Just wanted you to know, you’re so beautiful……you’re so beautiful……」
長い間隔を空けて立ち並ぶ街灯を通り過ぎる毎に、緩やかにリズムを取る影が伸びる。夕食の時間帯の夜道を賑わせるのは自分1人だけで、絶好のフリー単独ライブだ。今夜もまた、少し歌を形にできそうな気がして、つい、高く声を張ってしまう。
ここ一帯は自然が豊かで、あらゆる野生動物も暮らしている。幼少期の頃はよく、彼等の眠りを妨げないよう、夜は静かにしろなどと言われていた。でも、夜行性の生き物だっているじゃないかと、いつからか可愛げがなくなった。
「How boring I am......Not very nice, but who cares? I don't care......No matter how boring I am, I know you're the best......」
森林公園に入りながら、声にエッジが立つ。我が儘に欲しがる様に口ずさみながら、どこまでも広がる均された芝生を進んだ。点々と設置された遊具は、すっかり銅像になっている。
風がブランコを漕いでいるところ、向かいの柵に腰掛け、アコースティックギターを出した。エボニーブラックの艶が、遠い月光と重なりかける。3音の寂し気な低音を奏で、乾いた空気は、今にも濡っていく。
「It's been a while. When can I see you? Tell me your stories......」
成り立たない空白の部分は、敢えてそのまま、ただハミングを入れるだけでいいかもしれない。歌を作るよりも、今は、想っていたかった。その方が、全身が満たされていく気がした。
※ブルネットは主に栗色をいい、黒髪の次に一般的な色とされています。ライトブラウンから焦げ茶色と幅広いですが、暗めの茶色くらいがよいかと思います。
※主人公は作詞中につき、英詞の日本語訳は曲が完成した後に付けていきます。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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