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「なぁ、新曲の声ちょうだい」
ブルースが言いながら、始まりを鳴らしていく。彼は、なかなかできないステージでの練習で、いつもより熱くなっていた。
「何だ。やっとお前がぶっパナすとこ見れんのか」
レイデンは、アクセルの目が僅かに痙攣するのを面白がる。と、薄いミストの様な柔らかなギターの音が這った。そこに、自らの低音をエアーの様に吹かせていく。
2人のメロディは、まるで細かな露になる。その1粒1粒が哀愁と欲に変わると、孤独を絡めた水の線が、アクセルの身体に伝った。滴る音の粒は小さいのに重く、床の深いところまで浸透する。ブレンドされていく音に、アクセルは、昨晩の森林公園での時間を思い出した。
あの時の清々しさはどこへやら。今はどうもパッとしない。あの熱さはどこへ消えてしまったのか。浮かんだ詞の全てを書き直したくてたまらない。
演奏を止めようかとメンバーを覗き見ても、曲は急かす様に紡がれていく。散らかった感情をどう言い換えていいか分からず、結局、昨晩の歌詞を音に乗せるしかなかった。
調子良くウォームアップができていても、オリジナル曲になると狂いだす。メンバーはいつも通りなのに、しゃっくりとまではいかないが、歌う途中で何かが痞えてしまう。
アクセルはサングラスを外し、視界を変えた。眩しさに細まる目で、何か感情を乗せられそうなキッカケを探してみる。照明や窓の外、通りを緩やかに走行する自動車や、広場の中央の噴水の光。それらはだんだんと、新しい表現を投げてくる様だった。
「Just wanted you to know, you’re so beautiful. You’re so beau――っておい、何だっ!?」
シャウトとハウリングで空気が撃ち消されると、アクセルはバーチェアーごと転んだ。弦楽器の2人は耳を塞ぎ、ジェイソンはスティックを落としかける。
「相手への美の表現がそんなだとはな、アックス。止めとけ、ガチで殺されるぞ……いくらレイラでもな」
窓の外に目を向けたレイデンに、ジェイソンもすぐ事態に納得した。
レイラは口をあんぐりさせて目を見張ると、ストレートのダークブロンドの長髪が、動揺を見せた。抱えている大きな紙袋を、通学鞄が邪魔している。
「何だ来てたのか、入れよ!」
ブルースが手を揺らす横で、アクセルは肩越しに彼女を見ながら起き上がる。
レイラは、手で細かなジェスチャーを示していた。特にアクセルを見ながら、申し訳ないと、唇だけで訴えている。その後ろにバスが到着すると、それを指差すや否や、顔いっぱいに惜しさを滲ませ、手を振りながら走り去ってしまった。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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