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♪Youth / Daughter
YouTube「Daughter - Youth」で聴いて頂けます。ドーターというイギリスの3人組バンドで、誕生してから結構経ちますが、まだまだ現役です。
散り散りになる拍手を回収しようと、ブルースが、静かなソロを奏でていく。4人それぞれが阿吽の呼吸で構えに入ると、ウォームアップの曲が、辺りの空気を変え始めた。
カバーする曲は、音の波の大きさを感じるバラードで、2010年に誕生したトリオバンドのもの。ロンドンを拠点にフォークロックを奏で、深みや迫力ある歌詞が、女性ボーカリストのとろける声で表現されていた。それは、アクセルの憧れでもあった。
仄暗いライブハウスに射し込む外の光を、逆光になって浮かぶ観客ごと、アクセルはサングラスで閉ざしている。点々と降るスポットライトが心地よい温もりをくれ、より世界の一部になる。
傍にあったバーチェアに座り、マイクスタンドに触れた。音に乗せて、鮮やかな紅茶に垂れるミルクの様な、ソフトな声を作り上げる。マイクスタンドが反す陽射しが加わると、空気が朝模様になる。暫く、ブルースの単調な演奏に合わせて会場を満たした。
歌う事に真剣に興味を持ったのは中学の頃。今ほど自由に使えるお金がなく、家の至る所か、公園で声を張るばかりだった。周りの声や影が邪魔なものだから、視界に入る情報が少ない夜こそ快適な空間だった。明るい中でも音の一部になり、世界にのめり込む様に歌うには、どうすればよいのか。そこで目に留まったのが、サングラスだった。
作り上げた朝の空気を、低いベースとドラムが曇天に染めていく。彼等はその下に、暗い海景色を描いて波を立たせた。じきに雨を呼ぼうとする音の雲を、強まるビートで掻き分けていく。と、陽射しになるシンバルが、そっと昼の空気に変えていった。
恋模様が描かれた歌詞には、少し我が儘で当たりが強い部分を含んでいる。投げやりになるくせに、要求もしてしまう。そんな定まらない感情を自分に重ねながら、少し嗄らせた声に絡めた。そしてメンバーが作り上げた昼間を、夕陽の色に染めていく。どうしても沈んでしまう太陽に彼女が見えると、岩を叩く波の様な歌で欲しがった。
同じ歌詞を繰り返し終えて、4人の息が静まり返る。ふと浮かんだ寸秒の夜が、曲に帳を下ろした。
ウォームアップを終えると、誉め言葉がライブハウスを彩る。学校よりも大人が多いため、鮮明なコメントも合間を縫って聞こえた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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