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下校のベルが鳴ると同時に、バケツを返した様に生徒達が教室から溢れ出た。バスを逃せば家に着くのがとんでもない時間になると慌てる生徒もいれば、自主的に補習を受けるために残る生徒もいた。中にはクラブ活動があり、終了時間に合わせて家族が迎えに来る事も。運動をして疲れた身体で運転をしようものなら、学校から車での通学許可を奪われてしまう。
3人の放課後は、ジェイソンとライブハウスで合流し、スタジオで缶詰になって練習するのが習慣だった。
「あいつ起きてっかな」
ブルースが呟くと、レイデンがシートベルトを乱暴に伸ばし、前のめりになる。と、またもブルースの喚きが飛ぶのだが
「任せろ、俺のIDでちょちょいのちょいよ。入る前にカウンター寄るわ」
ブルースの叱責を流すレイデンを、アクセルは笑いながら肩越しに振り返る。
「お前も忙しそうだな」
レイデンもまた、週末だけ、ジェイソンと同じエキストラ奏者をしている。マスターが居るカウンターで、仕事の連絡や、受け取るべき書類があるかどうかを確認するのが決まりだ。スタジオの予約なども全てそこで行うが、大抵はジェイソンが確保している。
下校時のBGMは、いつもアクセルが選んで再生する。4人の好みのアーティストは概ね似ているが、ブルースの場合、日本で活躍するバンドのCDも揃えているので興味深い。中でも皆が満場一致で評価するのは、頭だけが狼の謎めいたバンドだ。ワールドツアーを行うほどのビッグな獣達のライブには、一度行ってみたいと思っている。
強い陽射しを浴びるダウンタウンが見えてすぐ、円形の噴水が迎え入れた。ライブハウスが近い目印であり、側では、路上ライブやダンスの練習で賑わっている。
陽光に包まれて淑やかに見えるライブハウスは、ダークレッドのレンガ造りになっている。シックな見た目からは、陽が落ちるとギターとハンバーガーとBARのネオンが浮かび、違う表情になるとは思えない。そこを使う年齢層は幅広く、未成年者の管理を徹底するために、時間と販売品には厳密な区切りが設けられていた。
厚いガラス扉を開けてすぐ、ソファー席やテーブル席、端にはマスターとその家族が仕切るカウンター席が並ぶ。奥に広がるフロアの先にはステージがあり、躍って暴れるのも自由だ。
同じ放課後を過ごすティーンエイジャーや、余暇を過ごす60代が、点々と席を埋めているが、中には、早期退職を叶えて趣味に打ち込む大人もいる。人気なのはロックだが、ジャズやブルースも合間に飛び交う、幅広い音楽との出会いがある。ミュージシャンになりたいという夢を応援するここでは、スカウトもあり、プロが誕生した実績もあった。
♪頭だけが狼の謎めいたバンド
究極の生命体として有名な彼等は、MAN WITH A MISSIONといいます。2010年から日本を中心に、今や世界を駆け巡る5頭の人獣。爽快感あるロックとラップ、お勧めでございますよ。
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サスペンスダークファンタジー
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