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アクセルの姉、キャシーは、動物学の知識を得るため、フライトで2時間を越える州で暮らしている。大学に通いながら、アニマルセラピストとして勤めていた。
卒業が決まり、帰宅に向けての片付けもほぼ終えている。最終勤務日の今日は、施設の老人や子ども達と、仕事として管理している犬や猫、小動物のケアをしていた。いい働きぶりを見せてきた彼女の別れを、誰もが惜しんでおり、手紙や花を贈る人達で賑わっている。
明るいブラウンの髪を後ろで高く結い上げる姿は活動的であり、スポーティーな格好をしている。隣では、茶色と白が混ざり合うミルクティーの様なボーダーコリーが、尻尾を優雅に振りながら歩いていた。今日まで最高のパートナーとして共にやってきた、セラピー犬だ。
施設の利用者は、あらゆる身体の事情と共に生きている。そこで、定期的に動物との接点を持つ機会を提供し、生きる希望や笑顔に繋げ、リラックスできる環境を整える。そうしてキャシーは、利用者の心身の状態の改善を促してきた。
それだけでなく、人々の癒しと健康管理を共にサポートする犬や猫のケアも怠らない。キャシーの勤務先では、保護施設で行き場を失くした動物達を受け入れていた。彼等はこの世界に来るまでに、人による虐待や、飼育放棄を経験している。拭うには困難なトラウマや恐怖心もまた、共に働く獣医師達の務めだった。そして、無理のない範囲で、保護した彼等を再び人との社会に繋げる努力をしている。
午後の芝生は生き生きしていた。庭でぼんやりしていた車椅子の利用者に、キャシーは歩み寄る。
「こんにちは、マーサさん。いい天気ですね」
陽光に負けない笑顔で、利用者の前にしゃがむ。それに合わせて、セラピー犬も腰を下ろした。
「あら……初めまして。今日は、洗濯をするにはもってこいだわねぇ。けど、お客様が来たんじゃあねぇ……」
「そうですね。でもどうやら、ご友人の方が、マーサさんの分の洗濯もなされたようですよ」
キャシーは物干し竿を指差しながら、利用者を促す。そこには、施設のスタッフが干した洗濯ものが、はためていていた。
「あらまぁ……いいえ……あの干し方はきっと、あの人がやったんだわ」
どこか違うやり方を目にした時は、決まって、亡くなった夫がやったと話す。キャシーは愛らしく笑いながら、隣のセラピー犬を撫でた。
「サニーが会いに来ました。一緒に、お茶の時間はどうでしょう?」
「あらまぁ、まぁ……なんて大きな猫なの! 来なさい、来なさい」
とろける目をしていた利用者は、セラピー犬を見るなり、表情を輝かせた。手触りを全身で感じる様に、老いた両手で、懸命に包もうとする。
セラピー犬は、彼女の引き寄せる力に応える様に、前足を膝の上に乗せ、顔を近付けた。
「随分毛布みたいになってしまったのね、オスカー。お腹が空いたの? 何か食べて、整えに行かないと」
キャシーは笑顔を絶やさないまま、目だけで仕事に打ち込む。用意した餌と器を、横からそっと差し出すと、利用者は震える手でそれを支えながら、セラピー犬に食事を与えた。
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サスペンスダークファンタジー
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