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*完結* COYOTE   作者: terra.
Harvest Moon
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17




「……私達なんかに分かりっこないよ。妊娠や結婚どころか、恋愛だってこれからじゃん。これ見てよ。ついこの間、奥さんが出したやつ」



 生徒は、淡々と印象を添える相手に、そっと画面を差し出した。




“夫である貴方の傍で子どもを産むのは当たり前。貴方がどんな状況にあろうと、私はずっと想ってるし、待ってる。お願いだから顔を見せて。何がいけなかったのか、何があったのか、どうか聞かせて”






 2人の会話が止まった。だいの大人に比べれば、自分達は、まだ人生を駆け出したばかり。感情的なメッセージを発信する失踪者の妻は、世間に夫を容疑者呼ばわりされている。捜査中だというのに、犯人かもしれないという話題が先立つお陰で、容疑者に染まりつつあった。




 もし自分が当事者であった場合、果たして、この様に愛を持ち続けて戦う事はできるのだろうか。自分達の周りにいる大人すら、この事態を想像できずにいる。よってどうしても、夢のまた夢の様にしか感じられなかった。




 1つ言えるのは、目まぐるしく立つ勝手な言い掛かりこそ、恐ろしいという事だ。それは同時に痛くもあり、何枚もの壁を立てておきたくなる。実際にそんな経験をしたり、クラスメートが経験したりしているのも、見た事があった。



「死者が出てしまう前に解決したらいいのにね……本当の事なんて分かんないけど、奥さんの愛してる気持ちは、嘘じゃないって思いたいかな……」



「私なら、世間の声に泣き喚きそう……それを考えると、この人は強いんじゃない?」




 レイデンは、硬いパンの音を鳴らすと、聞き耳を立てる空気を荒々しく毟り取る。彼は、こまめに落ちたパンくずをテーブルの縁に集めながら、レモネードを流し込むと、次の一切れを手にした。




 ブルースは軽く息を吐くと、口に運び忘れていたラップサンドを放り込み、言う。



「俺ん家の近所だから、気にはなるんだよなぁ」



 つまり、アクセルの家の近くでもある。ブルースの家の周りには、キャンプや狩猟で賑わう山林がある。実際に事件の騒ぎを聞きつけ、負傷者の搬送も見かけた事もあった。




 隣の女子生徒の会話の内容は、3人とも把握している。猟のついでに容疑者も狩ってやる、などと言う者がいる事も。



「お前とこの父さんは、まだやってんのか。ハンター」



 ブルースの質問に、レイデンもアクセルを見る。



「やってんじゃないか。さすがに、噂になってる様な馬鹿はしてないだろうけど」



 父の度が過ぎる趣味である狩猟が、別居を招いた。とはいえ、月日が経った今、母と酷く仲違いをしている訳でもない。子ども達にとっては家族である事に変わりはなく、時々、父と連絡を取り合っている。母はそれを当然とし、特に何を言う訳でもなかった。



「釘打っときゃいい。バカしでかしたら俺がてめぇを狩るぞ、ってな」



 レイデンは、膝に予め敷いておいた紙ナプキンに、パンくずを落として纏める。



「その感じじゃ、しばらく喋ってねぇな。連絡するいい機会だろ」



 ブルースはアクセルに提案すると、最後のラップサンドを頬張った。




 アクセルは、待ち伏せするデザートを横目に、2人の言葉に小さく相槌を打つと、皿を平らげた。









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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
お疲れ様です♪ 噂になっている奥さんの旦那さんに容疑がかかっていると思うと、奥さんの身が心配ですね(--;) リアルではそう言う人が鬱病になったりしないか心配になりますし、この奥さんはそうあって欲しく…
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