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さっさと平らげねばならず、3人は、料理を受け取った順に頬張っていく。
アクセルは、グリルの網目がくっきりと入った、クラブハウスサンドに喰らいつく。歌い終えてからのお決まりは糖分摂取であり、チョコレートの香りが際立つクラシックブラウニーは欠かせない。
ブルースは、イタリアンなラップサンドを噛みしめる。しっとりとした生ハムに、みずみずしいトマトとレタスが、チーズと共に包まれた、清々しい口当たりだ。
レイデンは、ジューシーなミートボールとゆで卵、レタスとレッドオニオンで飾られた、サブマリンサンドを置く。と、すぐに手を出さず、予め丁寧にナイフでカットし、摘まんだ。
「へぇ、キャシー帰ってくんだ。賑やかでいいじゃねぇか。いつまで仲違いしてんだよ」
ブルースは、アクセルの愚痴をアイスコーヒーごと飲み込んだ。
「愛の鞭を受けていられる内は華だぜ、ブラザー。俺を見てみろ」
レイデンの笑えない発言に、2人は寸秒、手が止まる。彼が、剽軽でおふざけな自分を大胆に出せるようになったのは、バンドを結成してからだった。
冗談だと、レイデンは2人の空気を払う。アクセルの様な家庭環境を持たないからこそ、不意に出た言葉だった。こうして楽しく過ごせているのは、目の前の2人が、意地になってでもバンドに誘ってきたからだ。そして、メンバー入りに否定的だったジェイソンを誘うのに、一緒になって苦労した。当時、彼がようやく頷いた時は、サッカーでゴールを決める様な最高の瞬間だった。そして、自分の人生が本格的に変わった瞬間でもあった。
空気が解れてすぐ、ブルースの愚痴が始まる。母に、今朝のウォームアップが煩すぎると吠え飛ばされた話は、初めての事ではないのに毎回笑えた。
そこへふと、耳に入ってきた会話が食事を止めてきた。その間は、隣の女子生徒の話しで埋められていく。
「あ、出てるじゃん。失踪したイケメンの医者」
1人が、相手にスマートフォンを向けた。
開かれているのは、人探しを呼びかけるチラシの画像だった。それは実際、街の掲示板や警察署にも貼り出されている。
「それさぁ、おかしくない? 襲われた人が言ってる見た目と、ちっとも違うじゃん。髪も目も、ギンギラに光ってたって。どうせガセネタよ」
失踪中の男性は、医師になって間もなかった。彼の家族は、今でも捜索を強く促している。中でも妻は、最も情報発信をし、行動を続けていた。しかし――
「奥さん可哀想だよね。お腹の子は生まれたのかな」
スマートフォンを向けていた生徒は、言いながら画面に向き直ると、スクロールしていく。
「それも思うんだけどさぁ。前に聞いた話じゃ、その人、妊娠して2年になるって。有り得ないでしょ? 絶対、そこら中の業界を巻き込んだ大規模ドッキリか何かだって」
その情報は、失踪事件を機にマスコミを通じて、僅かながら病院から報じられていたものだった。
猟師が野生動物に襲われる事件が相次ぐ一方で、男性の妻や家族の捜索活動は、再び、失踪事件発生当初を思わせるほど、メディアを騒がせていた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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