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*完結* COYOTE   作者: terra.
Hunters Moon
177/184

14




 アクセルは、地面に滑り落ちるや否や、顔を上げた。そっと目を開いた時、夥しい数の痛みと悲しみが滲むと、灰色の視界が(くす)みはじめる。1粒が、銀の瞳を洗い流し、目元に目一杯まで溜まって零れた拍子に、色付いた世界が広がった。

 土の冷たさや、草木の香りを感じながら、身体を起こしていく。その時、耳を擽る多種多様なメロディーに、はっと振り向かされた。そして



「銃は持つな。抵抗するようなら、眠らせる事に徹しろ」



 3人の警官が足早にやってくるのを聞きつけた。その時、彼等よりも先に茂みを掻き分け、木々の合間を縫って現れたのは、細身の女性警官だった。




 アクセルは息を殺し、匍匐前進で距離を取る。彼等が先程の騒ぎを聞きつけたとすると、やはりあの事態は現実なのだろうかと、頭で思い返していく。

 では、黒い陽炎を纏う男も実在しているという事になる。しかし、その彼は一体どこへ行ってしまったのか。身を潜めながら、視線を這わせる。

 自分やステファンの事を気にかけ、クランチを先駆者と呼んで撃ち消してしまった様子から、確実に何かを知っているに違いない。

 そしてふと、首を傾げた。どこか苦しそうにしながらも、笑みを絞り出し、懸命に話していた様子が引っ掛かる。




 アクセルは、静かに深呼吸を繰り返した。どういう訳か、これまでとは比べ物にならないくらい、身体が軽くなっている。胸の奥から込み上げる熱は、骨や肉を変えようとするものではなく、懐かしいものだった。

 数々の懐かしすぎる感覚に対し、どんな表現をしていたか、思い出そうにも追いつけない。だが、咄嗟に口を押さえた手の隙間から、涙と共に零れ出たのは――



「寂……しい……」



 錆びてしまっていた表現は、連なる蔦を引く様に、みるみる溢れ出した。忘れ去られた恐怖や悲しみ、孤独に怒り、冷たい、温かいという感情は、最後、“愛おしい”というものに変わった。




 アクセルは弾みで立ち上がる。湧き出る記憶は、視界を熱く曇らせていく。もう、そこから匂いなんてしてこなかった。そんなものに縋らなくても、よくなった。



「レイラ……?」



 警官達の接近も構わず、アクセルは茂みから飛び出すと、ライブ会場の柵を目指して駆け下りた。



「ブルース! レイデン! ジェイソン!」



 もう、忘れてしまっただろうか。自分を恨んでいるだろうか。銀の呪いに侵食されたあまり、いつしか、彼等の事をそんな風に思いながら森で生きるようになった。そのことすら自分は、今この瞬間まで忘れてしまっていた。身体のどこかに閉ざされていた思い出の栓が抜け、末端まで一気に満たされていく。



「父さん、母さん! ソニア! キャシー!」



 だけど実際は、誰も忘れてなどいない。自分が託した願いを、皆は受け入れ、実行してくれた。音を送り、探すという事を――

 アクセルは柵に飛びかかり、登りかける。獣として生きていた間についた癖は、一向に言う事を聞かず、手足は滑り落ちてしまう。






 先行していた女性警官は、茂みから飛び出した巨大な影に肩を弾ませ、足が竦む。まるで熊が現れた様な事態に、みるみる身体が硬直した。見兼ねた背後の警官達は、彼女を追い越していく。




 駆けつけた警官達は、柵にしがみつきながら、何やら多くの言葉を喚く人物を取り押さえた。

 1人の警官が、アクセルの名を呼んで確認をする。アクセルは、絡みついてくる腕を乱暴に振り解いてでも、ステージ上の彼等から目を離さなかった。

 3人の警官は、アクセルの凶暴的な抵抗をどうにか抑える。その時、地面を静かに踏みしめる足音を聞きつけ、アクセルは大きく振り向いた。



「……アックスなの?」



 パトカーの照明の点滅が、彼女の姿を微かに引き立てた時、飛び込んだパフォーマンスの爆音に押される様に、アクセルは前傾になった。



「レイラ……!? レイラ、俺だ!」









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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月27日完結

続編「Dearest」当日同時公開


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんばんは♪ いつも投稿お疲れ様です☆ 警察官がやはりアクセルとレイラたちの再開を遮ってしまいましたね。 アクセルを眠らせるよう指示を出しましたが、まるで獣として扱われている様で、悲しいです。 アクセ…
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