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アクセルは両足を振り、相手と距離を取ろうとした。だが、その彼の身体から立ち込める黒い陽炎は、アクセルの足首を掴み、幹に張りつけにする。
「時間がない、よく聞くんだ」
異様な事態も余所に、彼は、先程とは違う穏やかな声で、冷静に切り出した。しかしアクセルは、拘束から逃れようと身体を揺さぶる。
彼は、瞳に僅かな影を落とすと、陽炎による拘束を強めた。アクセルは、近づけられるピストルに、銀の眼を剥く。
鏡張りのボディに浮かぶカウントダウンは、最終的に“0.00”を目指して高速に数字を切っていた。見ると、もう30秒を切っている。
口を開いた矢先――銃口が捻じ込まれた。喉の奥まで迫るそれに歯を立て、アクセルは、噛み砕こうと威嚇する。だが、これまで喰らいついてきたどんなものよりも硬く、歯が痺れていく。
「さっきのコヨーテと、君に辿り着くのがやっとだった……でも君は、きっと未来を変えられる……ステファンの変化がそれを証明してると、僕は信じてる。いつか、誰もが元の生き方を取り戻せるように……僕も、それに努めてみせる」
半ば早口とはいえ、優しい物言いだった。しかし内容が整理できず、アクセルは動揺し、顎の力が緩んでいく。
抵抗が弱まるアクセルを見て、青い眼差しの彼は、肩で息をしながら微笑んだ。
「タイムリミットだ。会えてよかった。とはいえ、これも皮肉だけどっ!」
その場が、息を吸い込む音に満ちた時――アクセルは、銀の閃光に視界を奪われた。
体内に熱の激流を感じても、まるで声帯を奪われたようで、悲鳴が上がらない。骨の髄まで熱が沁み、焼かれていく様だった。大量の杭が、身体を隈なく貫き、軋ませてくるのにも似た感覚に、意識が遠のいていく。それでも、現れた彼の存在を感じていた。何も言えず、彼を掴み返す事もできないまま、ただ、言葉だけが残った。
「勝とうぜ……例え、その役目が君や僕でなくてもだ……人の力を引き継ごう……」
拘束が解けるのが先か――あの、厚い鉄を激しく打ち鳴らす様な音が、再び轟いた。
ライブ会場の柵の外から、激しい茂みの音がし、レイラは、はたと振り返る。他の警官達もまた、気配を察して目を凝らした。
自然の音と思えば、いつもと何ら変わらない。しかし、音に振り向かされた、という感覚ではなかった。足は自ずと、その方角へ向きを変えていく。傍にいたリーダーに肩を掴まれても、反射的に振り解いてしまった。
「何かの接近を感じます。向かいます」
――ハイドアンドシークは、私が一番強い
たとえ、それが違っていたとしても、駆け出しの自分の落ち度に終わるだけだ。どんな叱責を受けても構わない。今やるべき事は、メンバーの死角で、彼を探す事だ。
レイラは、周囲の仲間達の声や、引き留める腕も余所に、会場の外側――茂みへ走った。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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