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*完結* COYOTE   作者: terra.
Hunters Moon
172/184

9




 時が経ってからも、アクセルは、クランチの言葉が嘘か真かを考えていた。そして気づけば、その度に、遠くを呆然と眺めるステファンを思い出すのが、自然になった。

 悍ましい彼を見れば、誰もが、人ではないと認めるのだろう。しかしアクセルは、大木の枝に身を預ける彼を見かけては、世に巡る彼の印象に、首を横に振ってきた。




 ステファンが何を見据えているのかは、分からない。だが、未だ身体のどこかで生きている記憶が、間違いなく、彼にそうさせる時間をもたらしている。同じ世界に踏み込んだ自分だからこそ、そう信じたかった。だから、彼がいつしか手に入れていたMISSING PERSONの紙を、決して捨てるなと言い続けた。それにこそ、唯一の綱が潜んでいる。




 アクセルは、クランチを使ってできる事を考えた。誘い出すにはどうするべきか。思考が止まった時は決まって、手帳を開いた。

 “KEEP IT(捨てるな)”と大きく刻まれた表紙に従えているお陰で、この身体の事情と向き合えている。

 過去の自分が、今の自分に宛てて、あらゆる事を書き連ねている。一文をなぞる様に読む事で、やっと意味が掴める。そのまま目を走らせていく内に、あるワードに目が止まると、そっと呟いた。



「コーン……フレー……ク……無糖……」



 その時、端の岩で身を丸めていたクランチが、すっくと立ち上がった。アクセルは眉を寄せ、その様子に目を細める。クランチは眼光を増し、舌を垂らして息を荒げた。



『出せ』



 おかしな奴だと、アクセルは更に顔を歪める。だが、クランチの反応を改めて観察してみた時、そっと、口角が吊り上がった。






 記憶が未だ鮮明である自分が、嗅ぎ回るしかなかった。アクセルは、クランチを率いての街の詮索に成功した。そして半年が過ぎ、ついにホリーの居場所を嗅ぎつけた。




 静まり返る一戸建ては、人気を感じにくいが、ステファンが所持していた紙に付着していた匂いがする。碌に外に出られていないのか、或いは、出られたとしても最低限の移動なのか。庭に花はなく、壁には、妙なペンキ汚れを擦り落とした様な跡が、大きく点在している。

 周辺には、別の人間の臭いも薄く立ち込めていた。恐らくは、張りついていた者のそれだろう。しかし近頃は、影も形もない様子が、空気から感じ取れた。世間が変わり始めている今、情報屋は、別のものを欲しがっているのかもしれない。近付くならばチャンスだと、アクセルは、身を潜めていた公園の茂みから立ち上がる。



「カメラを狂わせたら、宝庫を教えてやる」



 その言葉に、クランチが眼を煌々と光らせた。



『全部食っていい?』



 背筋を伸ばし、舌を出して求める様子に、アクセルは頷く。



「捨てちまうもんだ。お前も、フードウェイストに貢献できる優秀な犬だぜ」



『今更そんなもん興味ねぇ。さっさとしやがれ』



 眼差しを尖らせたクランチは、アクセルに唸ると、茂みを飛び出すと同時に姿を消した。

 風の如く変化するその存在が何なのかは、未だに分からない。時に不思議なのは、冷酷でありながらも、情の様なものがちらつく瞬間があるという事だ。




 アクセルは、クランチと共に生きるようになり、腹立たしい事ばかりであっても、その根底にある何かが気がかりだった。自分やステファンの様に、銀の光の力を得た動物達にも、肉体に刻まれた記憶――道標のようなものがあるのではないかという考えが過った。








※フードウェイストとは、いわゆるフードロスのことです。まるで、そんな配慮も「今更」結構だ、とでも言っているようです。クランチが捻くれているが故の発言なのでしょうか。




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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月27日完結

続編「Dearest」当日同時公開


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつも投稿お疲れ様です☆ クランチがコーンフレークにガッつくのは何か理由があるのか、考えてみれば謎ですよね。 それとも何か見落としがあったのか。 とにもかくにもクランチたちコヨーテはコー…
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