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ステファンは、淡く灯る眼を泳がせ、発言の意味を宙に探し求めた。飛び込む木々が、草が、石が視界を遮り、置き去りにしてきた思い出や想いが、埋もれてしまう。そこに探すべきものがあるかもしれないのに、見つけ出せない。そして何故か、アクセルの影までもが薄れていく。だんだんと息が上がり、思考は塗り替えられていく――探すべきではない、と。
見兼ねたアクセルは、激しい息切れを起こすステファンの両肩を掴んだ。しかしステファンは、恐れる様にその手を振り解く。その見開かれた眼は困惑に揺れ、濡れていく。そこに何らかの淀みの様な、燻みを捉えたアクセルは、彼を幹に押しつけた。
「言え、ステファン! 全部吐き出せ! 聞こえるもん、匂うもん、見えるもん全部だ!」
「嫌だっ!」
震える叫びは、ひ弱な獣の声に埋もれる。目が合わない様子から、別の事に対する叫びだろうかと、アクセルは更に揺さぶった。
「まだだ! 今ここで全部吐け!」
「俺はできない! どこにも行けない! 俺は家族になれない! 守れない!」
ステファンは、いよいよアクセルを押しやる。だが、アクセルは尚も彼を掴み、抗った。互いの怒りが眼光に克ち合おうとも、威嚇で圧力をかけ続けた。
「守れる! 守ってきたんだ、今だってやれる!」
「俺はコヨーテだっ!」
ステファンの叫びが響いた矢先、アクセルの殴打がその声を断ち切った。それでも、ステファンは襲いかかろうとする。アクセルは躱さず、彼の牙ごと全身に受け止めた。
左肩に食い込んだ牙から、銀の液が滴る。アクセルは痛みに吠え声を上げるも、歯を食いしばった。そして、いやらしい笑みを浮かべて傍観するクランチを睨んだ。その被毛の逆立ちや、眼光が鋭利になる様は、ステファンと何ら変わらなかった。
アクセルは腹の底から威嚇すると、ステファンの顎が緩んだ隙に、彼を蹴飛ばした。ステファンが身を立て直すよりも速く、アクセルは、唸る彼を再び幹に叩きつけ、光に満ちた瞳を向けて吠え飛ばす。
「あんたは、1人の人間を愛した、人間なんだよっ!」
肉体こそが、それを覚えていた。完全に獣になるなど、きっとできない。否、なってたまるものかと、歯を軋ませる。
ステファンは抵抗を止め、腕を力無く幹に叩きつけた。アクセルは肩で息をしながら、悲愴に項垂れていく彼に、そっと語りかける。
「ステファン……コヨーテかどうかじゃない……ホリーにとっては、あんたかどうか……それだけだ……」
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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