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何があろうと、自分達はアクセルの永遠の居場所だ。それを思い出すのにもまた、時間がかかった。その期間中、碌に音を発信しなかったせいで、彼が帰るキッカケを潰していたのだとすれば――気持ちはまた、負の沼に落ちていく。自分達の勝手な選択で、彼を遠ざけてしまった、と。
だが、一新したレイラが、1つの小さな兆しをくれた時、可能性が広がり始めた。夢を葬り、働くだけの人生に、彼女という光が射すと、大きなものを生み出させた。
それから2年少しという時間をかけ、3人とレイラの誓いは、そこだけに留まる事をしなくなった。現ボーカルのダイナ、キーボーディストのエマに加え、ツインギターの相方ペイトンにも引き継がれた。
途切れる事を知らない、永遠の居場所であり痕跡――Lasting Traceと掲げたのは、決して、アクセルの居場所がここだけであると意味しているのではない。彼の、未だ姿を見せようとしない決断の意味は、もっと他にもあるに違いない。何故なら彼は、いつだって、人一倍考えて生きていたのだから。
別の領域で彼を見つける決意をしたレイラは、今夜、漸く、会場を取り囲むガードの一部になれた。だが、緊張に荒れる鼓動と息は、任務の邪魔をするばかりだった。キャプテンとチームリーダーの指摘や、その他の上司の笑みが痛く、無力さに足先から竦んでしまう。視界の震えに吐き気がし、出そうになる心臓を呑み込んだ。
「アックス……」
良薬を求めて呟いた時、スモークが立ち込める。膨らむサイバーパンクな空間に、顔が崩れるのを許されている様な気がした。大きく様変わりし、再来した友人達による演出が、励ましをくれる。それもまた、最良の薬になった。
たとえ忘れてしまっても――そんな事ばかりを気にしていたアクセルに対し、自分がしていた発言は、果たして、正しかったのだろうか。彼に積もり積もった不安に寄り添いながらも、自分は、差し出された手帳に我が儘な事を書いてしまった。
明確な言葉で気持ちを伝えられた事はない。しかし、アクセルの行動や歌に含まれていた感情と想いは、確かなものだった。
なのに、彼の1つ1つの愛情表現に、わざと分からない振りをした。もっと分かりやすい表現を求めてしまった。そして、それをなかなか聞かせて貰えないあまり、自分の方が痺れを切らし、愛させろと零してしまった。
あの晩、彼はそれでもまだ、応えなかった。それに、寂しさを抱いてしまった。
自分がいかに愚かであったか、今頃になって痛いほど解る。悲痛を隠し、普段通りを装い続けるアクセルに、よくも、自分を愛せなどと求めたものだ。
優しい彼は、あの夜の路上ライブまでの間も、既に苦しみ、選択を終えた後だったのかもしれない。半分が獣である自分が、誰かを心底愛するなんてしてはいけないなどと、どうせ考えていたに違いない。そう思えば思うほど、レイラは、悔いの涙で溢れた。
“守りたいもののために生きる人間なんだ”と、アクセルがステファンに放った大声が、誰の胸にも焼きついている。
誰かの薬になる事を一時的に選択した可能性がある。そこに皆が辿り着いた時、探して欲しいと言い残した彼の望みのもと、再び声を張る決意をした。
人とは別の生き物の事も感じられるようになったアクセルが願うのは、何か。それを、バンドの再スタートいう形で、そのまま世界に魅せつける。そして、誰しもにやり直せる機会があり、そのためならば、時には回り道も許したって構わない事も――それら全ての意志を、全力で奏でた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月27日完結
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