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*完結* COYOTE   作者: terra.
Hunters Moon
164/184

1



迎えたのは、2年後の10月の満月。

狩猟がよく行われたとされるその月の満月は、ハンターズムーンと名付けられています。

満月は、満たされていくといった、スピリチュアルな意味が込められています。

本作の始まりのハーベストムーンとは違い、“狩る”ことにフォーカスしながら、誰がどんな形で満たされていくのかを見ていきましょう。

場面は、プロローグの延長です。






 ――失踪から2年――




 アクセルが帰らなくなったあの日は、爪痕として、メンバーの心に遺っていた。ステージにいる間も、その疼きが止んだことはない。




 空気を熱する歓声が、ライブを豪華に飾る。6人のメンバーの名が滞りなく上がり、次の曲を求められるのだが――彼等は、微塵も興奮しなかった。

 音を送れと言っておきながら、彼は、一向に現れなかった。1曲が終わる度に、閉幕が迫る度に、自分達の声が届いている手応えを感じないまま、上辺だけの笑顔を向けてきた。ステージ両側の銀のフラッグの影だけが、本来の表情を、少しばかり引き出させてくれる。




 大衆を前にしながら、メンバーがいながら、孤独だった。真上の、もう何度目にしたか分からない満月の様に。

 センターに冷たく佇むガイコツマイクに、中でも3人の視線が重なる。そこに這う銀の光が、彼が失踪してしまった当時を、いつも生々しく蘇らせた。




         *




 目の前で銃声が轟くなど、信じられなかった。なのに、そこに友人が巻き込まれ、挙句、気味の悪い銀の光の現象が起きた。その時の警官の判断は、正しかったのだろうか。




 友人を――ボーカリストを、返して欲しいだけだった。たった1つの切望を、幾度となく撃ち消された。最も近くにいたはずの自分達で、穏やかな方法で彼を止める事ができたならば、どんなによかっただろう。メンバーの悔やみは、一向に拭いきれなかった。




 過呼吸によって意識を失ったレイラの回復には、時間がかかった。3人は、そればかりは何を犠牲にしてでもサポートした。

 一方でバンドは、世界へ向かう足を止めた。動かせなくなったのだ。目的も気力も失った途端、各ポジションは冷え切り、バンドの脈は(ことご)く切れていった。誰の慰めも効かなかった。






「お前……一緒にいたじゃねぇかっ……」



 騒ぎの後、ライブハウスで警官にこってり絞られてからの事だった。込み上げる怒りを抑えきれず、ブルースはジェイソンに掴みかかった。



「あいつはいっつも誤魔化すって、知ってるくせに! 何で殴ってでも止めなかったんだよ!」



 その途端、レイデンが横入りし、ブルースを突き離した。



「どの口が! てめぇこそ毎朝毎朝一緒にいながらどこ見てやがった!」



 言い終わりと同時に、ブルースがレイデンに掴みかかるところ、マスターが割り込んだ。縛られた様に動かないジェイソンは、声を震わせる。



「悪かったっ……」



 見せる顔もなかった。これまで下してきた全ての判断が、水の泡になった。自分がアクセルに伝えてきた言葉に、血など一切通っていなかったのだと、顔を覆う手が、焦燥と悔いに激しく痺れていく。

 何故、あの時、気付けなかったのか。助手席にいた彼が、笑いながらも、本当は己に迫りくる恐ろしい現実と必死に戦っていたという事に。何故その時、素直に彼の言葉に応じてやれなかったのか。まるで今、目の前で話しかけてくる様に、アクセルの声が頭に響いたまま消えない。自分の言葉を――車内で話したセリフを録音させろと言う、声が。




 鮮明すぎるそれに胸を抉られ、ジェイソンはテーブルを殴った。足が脱力し、床にへたり込んだ。彼のその姿に、端の2人の動きが止まる。



「俺が……悪かったっ……」



 振り返るチャンスは十分あった。なのに自分達は、友人を気分よく歌わせる方を優先した。そして自分達が、それに満たされる方を選んだ。世間を揺るがすものが、目と鼻の先の友人の中に潜んでいるかもしれないと、心のどこかで分かっていながら。




 目の前から、触れられる距離からいなくなられる事が、堪らなく嫌だった。一緒にいればなんとかなると、根拠もなく思ってしまった。

 彼の家族と同じくらい、気を向けられたはずだった。いっその事、本人の意思など無視してでも、隠している何かに踏み込めばよかった。彼自身が、歌えなくなるかもしれないと早々に思っていたならば、何故自分達も同じ様に、そこに立とうしなかったのか。自分達の問題でもあるなど、口だけに終わってしまっていた。




 後悔の荒波が引いたのがいつなのかは、覚えていない。誰がいつ、自分達を迎えに来てくれたのかも。いつ帰宅し、眠ったのかも。だが唯一、バンドとして最終的に交わした言葉は、爪痕になった。



「やってられるかっ……」








※元々「3年」としていたところ、「2年経過」になるよう変更しました。

メインキャラ達の年齢と、それに合わせた進路の都合上、時系列を見直しましたためです。



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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月27日完結

続編「Dearest」当日同時公開


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつも投稿お疲れ様です☆ 新章始まってから、まさかの二年後! これには驚きました。 ただ、メンバーの中はかなり冷えて、荒々しくなってますね。 アクセルを失い、今どこにいるのかも分からず、…
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