17
眩い銀の光を放つステファンに、周囲の声が轟いた。彼の宙を掻く指先から、銀の液が糸を描く様に散ると、路面に落ちては蒸発する。それを見た警官達は、声を失う。
彼等が身構えた際に、引き金に触れる音を聞きつけた時――アクセルは、ステファンの襟首を掴んで倒れた。そこに麻酔銃が弾けると、ステファンは、それを発射した警官に飛びかかろうとする。
だがアクセルは、全身から彼を止めに入った。その動きを追えた者はいない。見るからに獣である彼等を制御する手段など、他にはなく、警官達の武器を握る手が強まる。
「止めて!」
飛び込んだ一声は、波瀾の中に凛と際立った。一心不乱に藻掻き、苦しみで犇めくその場に、芳香がふっと漂う。
匂いに振り向いたアクセルは、不意に飛び込んできた女性を透かさず受け止め、横転した。彼女を庇う寸秒の間――身を翻したステファンの毛先から、硝煙が上がった。2人にふりかかった“改良”は、テーザー銃すら、呼吸をするように躱せるものだった。
いよいよ特殊部隊が合流し、周辺では、二次被害を防ぐ誘導が起きた。
「アックス待って! 行かないで!」
その声に、僅かに耳が反応するものの、アクセルは、現れた部隊の1人を颯爽と振り解き、盾に覆われようとするステファンの元へ駆けた。
入れ替わるように保護されたレイラは、心まで脱力し、足が動かない。目と鼻の先にいる想い人は、1度たりともこちらを見ず、遠くへ行ってしまう。
それは、後方へ押しやられたメンバーも同じだった。豹変した友人の行動に、全身が悔いに締めつけられる。特殊部隊をも弾き返す銀の人影に、周囲が浴びせるのは――害獣。撃ち殺せ。彼等はまるで、そこにいる2人が、人ではないと見切ったようだった。
アクセルは、絡みつく警官の腕の動きを鮮やかに読み取り、擦り抜け続けた。振り下ろされる警棒を奪い、脇に払い除けていく。その時、2人の痕跡を拭おうと、あの銀の光の煙が、一面を取り囲みはじめた。
その現象に、周囲が動きを止め、瞼を失った時――アクセルは、やっと掴んだステファンを引き上げ、パトカーに叩きつけた。
「聞け、しっかりしろ! あんたも奥さんも、こんな事は望んでなかったろう……」
両眼を鋭く見張るステファンは、アクセルに抗い切れず、獣の声で怒りに藻掻く。
「あんたはホリーの望みだけは忘れなかった……それだけは覚えてたから、ガレージに来たんだろ……歪んだハンティングだけは許せなかった……そうだろ……」
ホリーという言葉に、ステファンの眼光が和らいでいく。彼は、やっと1つ瞬きし、呻き声を鎮めた。
「ターゲットは他にいる! ステファン、あんたも俺も道具じゃねぇ。獣でもねぇ。守りたいもんのために生きる人間なんだよ! 思い出せ!
こんな事をしでかす碌でもねぇ何モンかに、それを解らせてやれるのは、本当の改良が何かを見せてやれるのは、俺達人間だけなんだよ! 戻って来い!」
彼の背中を打ちつけた矢先――麻酔銃が、パトカーの窓ガラスを撃ち抜いた。
※テーザー銃は、スタンガン型の銃で、利き手とは逆側に備えるとされているようです。因みに、利き手側には実際の銃が備えられ、その時の判断に応じて瞬時に使い分けます。主流ではないですが、危険性の低い選択肢として使われることが増えており、不必要な殺傷を避けるためでもあるようです。
今回、アクセルと最初に向き合った警官は、アクセルがステファンと同じ襲撃をする可能性があると判断したことから、あくまで脅しとして、実際の銃を向けています。けれども、実際警察の裏では、2人の身に起きていることを調べる必要があるとしているため、まずは口頭指示→物理的な取り押さえ→非殺傷性武器を使う、という動きにしています。ただ、検問のシーンでの警官の発言から、ステファンに対する警戒は極めて強くなっているため、最悪、発砲する可能性も高まってきている状況にあります。
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サスペンスダークファンタジー
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