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*完結* COYOTE   作者: terra.
Waxing Gibbous
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 アクセルはルーフに手をつき、身体を預けたまま警官を睨む。銀の瞳に、撮れ高を求める傍観者がチラついた。その動きは、のろまな幽霊(ゴースト)が這う様だった。

 どこからともなく、警官の小声のやり取りが聞こえてくる。誰が自分を眠らせ、確保するつもりでいるのか。声の出所に、じっと視線を流した。




 害獣用に使用される麻酔銃の構えを見た時、胸の奥から更に熱が吹き出した。鋭い感情が歯を鳴らし、

唸り声が漏れる。悔いと怒りが己を掻き消そうとしてくるのが、まだ意識できた。呑まれては終わりだと、ルーフの手を拳に変え、鼻に集中する。




 焦りと涙にまみれながら、それでも自分を呼び覚まそうとしてくる芳香を、ひっきりなしに求めた。変わり果てた眼で、彼女を見たくない。変わり果てた姿の自分は、もう、意の向くままに愛す訳にはいかない。

 積もる辛苦を、激しい息に変えた。徐々に距離を詰めてくる警官に、低く身構える。銃弾の臭いが、余計に怒りを掻き立ててくる。




 別の何かを振り向かせる――それができるかもしれない自分を、撃ち消させるわけにはいかないと、アクセルは、威嚇を放って見せつけた。

 周囲の戸惑いに、警官の怯みがその顔に滲んだ。



「落ち着け……助けてやる……」



 警官は、緊張を隠し切れない声をかけた後、銃を仕舞うと、両手を空けて見せる。

 だがアクセルは、背後に回る別のグループの動きや、麻酔銃の構える位置が上がる音を聞きつけると、空笑いが漏れた。もう時間が残されていないと悟ると、獣の息を荒げるまま周囲を見回し、切り出す。



「撮るなら、しっかり押さえろ……いいか、これは人力で起きてるんじゃない……ステファンも被害者だ……俺よりも遥かに侵され、歪なもんに弄ばれてる……」



 騒ぎの波が高くなる中、警官は目を細めた。



「……君達の異変は認める。だが、そのままではこちらも出難い。冷静になれ」



 その時、背後で微かな警棒の音を聞きつけると、アクセルは、振り向きざまに警官を威嚇した。だが、それと入れ替わる様に、説得していた警官がアクセルに飛び掛かると、彼をパトカーに押さえつけた。そこに数人の警官が群がると、手錠が光り、鎮静剤を持った者も駆けつける。




 この激動の中、しかし、メンバー達は違った。変わり果てても事態を訴え続ける友人を見つめ、その想いを汲み、抑制してくる警官の腕越しに、彼を呼び続けた。




 押し寄せる圧力に、アクセルは息が詰まっていく。空いた左手首に、冷たいものを感じた途端――感情が()ぜた。(かつ)て無い喉の振動に、異様さを覚えながらも、それは長く、高く上がった。悲鳴混じりの遠吠えは、遥か遠くまで波紋を広げた。




 大気を震わせるそれは、じきに、この場にはなかった疾走音を招くと、1つの影を呼び寄せた。

 警官の壁が、瞬く間に破られていく。散り散りになる悲鳴の中を、細い銀の閃光が奔り抜けた時――地を砕かんばかりの低い吠え声を上げた彼は、アクセルに重なる最後の警官を引き剥がした。









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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつも投稿お疲れ様です☆ アクセルが豹変してもまだ自我を保っていましたね。 でもアクセルは別人となった姿をレイラには見せたくないと言う思いも、読んでいて辛かったです。 どうしてこうも警…
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