15
アクセルの遠ざかる瞳に、微かな望みが光として垣間見えた時、ジェイソンは、パトカーまで飛び出した。
「一緒に行く。俺だって、何も知らなかった訳じゃない」
だが、警官が口を開きかけるよりも先に、アクセルがジェイソンを押しやった。
「いや、お前は何も知らない。誰も、何もだ」
もう1人の警官がパトカーを開ける頃には、周辺に人だかりができており、多くのカメラと視線が向けられていた。
アクセルは、それらに素早く視線を這わせた途端――眼差しを尖らせ、封じていた熱の蓋を自ら取り払うと、警官の腕を颯爽と振り解き、パトカーに押しつけた。
周りは悲鳴を上げ、大きく後退る。アクセルの握力に、下になる警官は呻き声を漏らした。別の警官が迫りくる気配がすると、アクセルは、掴んでいた警官の上体を起こし、投げ返す。
アクセルは、野次馬の外へ駆け出そうとするが、投げた警官に透かさず足首を掴まれ、転倒した。そのまま、背中から押さえつけられる。
駆けつけたレイデンとジェイソンは、その警官を引き剥がそうとした。足首を掴む手が僅かに緩むと、アクセルは蹴り解き、走り出す姿勢になる。その向かいにブルースが回り込むと、アクセルを引き寄せ、共にパトカーから離れようとした。
しかし、空気は金属の音で一変した。
「止まれ、アクセル・グレイ。そこの君も、その子から離れろ」
ブルースを始め、誰しもが血の気を引くのを感じた。アクセルはブルースを押しやると、易々と銃口と向き合う。警官は、肩での呼吸を抑えながら切り出した。
「昨晩、ここから南下した先にある閉鎖中の狩猟エリアで、レンジャーと警官が襲撃された。君に、その疑いがかかってる。検問時の出過ぎた発言と、君の身体が随分特殊と見られる記載文が部屋から出てきた点から、記録の隠し処も甘かったな。そして、先週に負った傷の手当てをしている形跡も、全くない。その傷テープは、別件を隠すために貼ってるんじゃないか」
周囲の騒めきが増すと、その場に取り残されたメンバーやレイラの顔は強張り、唖然とする。
「……参ったな。恥ずかしいじゃん、そんなにさらされちゃ」
アクセルは、豹変が迫る震えを迎え入れる覚悟で、右口角を上げる。
「お友達やご家族のためにも、来るんだ」
「言ってる事は痛いほど分かるんだけど、この事態は、俺を缶詰にしたところで何も変わらない。終わらせられるキーを握る何かが、他にいる。そいつを振り向かせる必要がある」
警官は目を細め、向けていた銃を僅かに下げる。小さく漏れた溜め息には、アクセルを残念がる様子が滲み出ていた。
「いくら本物のヒーローでも、発言は、場所と状況を弁えてると思うが? お話なら、署で待ってる医者にゆっくり聞いてもらうといい」
と、背後から応援に駆けつけた警官が、アクセルを取り押さえた。
2人がかりで羽交い絞めにされる彼を見兼ね、ブルースやレイデン、ジェイソンの足は、自ずと警官の輪に走る。しかし、彼等もまた、追いついた他の警官グループに阻まれた。
騒ぎを貫くレイラの涙声に、アクセルは首を振り、怒りを拭う。そして、獣の威嚇を放ちながら、警官を睨んだ。
その場は悲鳴で犇めき、逃げ足の音が散らばる。駆けつけた応援グループは警棒を構え、アクセルと対面する警官は銃を握り直した。
「動くな……」
アクセルからずっと離れた後ろで、メンバーが恐々と彼の名を呟いた。異変を曝け出す友人の姿に、息が詰まってしまう。辺りでは、麻酔銃を寄こすよう、他の警官が騒ぎはじめていた。
「仕舞った方が……いいんじゃないのか……」
アクセルは、パトカーのルーフの縁から銃を睨み、声を絞り出した。肩の呼吸に合わせて、髪と肉体が様変わりする。
その姿を、誰1人見逃した者はいない。恐れながらも撮影し続ける者や、面白く実況する声が遠くから聞こえようとも、アクセルはもう、隠すことはしなかった。
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サスペンスダークファンタジー
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