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※約3300字でお送りします。
♪ONE OK ROCK /【No Nothing Help】
YouTube / ONE OK ROCK Official Channel にて聴いて頂けます。
「【HD】ONE OK ROCK - Nothing Helps "Mighty Long Fall at Yokohama Stadium" LIVE」
★COYOTE ver. / 【Rev up!】
周囲は、教師が思わず変える表情を揶揄いながら、出だしの音のリズムに合わせて、手拍子と声を足す。
ブルースとレイデンもまた、教師に悪戯な笑みを浮かべると、透かさずジェイソンが、合間のシンバルを強く引っ叩いた。
睨む彼を、アクセルは手だけで宥めると、片手でマイクを包む。空気が一変した時、声のペダルを踏んでいった。
「誰も助けちゃくれないよ
置いてかれないように努力をしたって
誰も見てない
結局 俺 たちは自分に精一杯だ……」
気の抜けた終わりで、アイドリングが静まり切ろうとすると――シンバルと床を突くドラムが2ヒットし、ギアが上がった。
「いくぞ!」
アクセルの声が効くと、連打でエンジンを吹かせたジェイソンは、影を残すスティックで、コマンドを打ち出す。それを受けたギターとベースが、最高速でサウンドのタイヤを走らせた。
「吹かしてみろよ......ほら吹かせよ......」
重なる3人の声が煙を立て、空気を巻き上げた。飛び込むブルースのシャウトが観客を揺さぶり、歓声は、エンジン音と排気に変わる。
開通したロックサウンドの道路を、4人は爆走した。向かい風に乗るメロディが、尾を引いていく。全身に受ける3人のスピードが緩やかになると、アクセルは、声のハンドルを切った。
「よう新しい自分 調子はどうだ
怖いのか?
世間が過去の君のお蔵入りを望んだからか?
さぁ 最高と認められるために歩調を合わせよう」
両側の2人の声が重なると、その場が揺れ、観客ごと捻じ曲げる。
「長いもんは切り 白は黒に変えよう
ほらご立派だ 味方を得られたんなら
けど言っておく 長続きなんてしない」
スネアの孤立した1ヒットが、速さを欲しがった。前傾になるアクセルの声に続き、2人のタイヤが更に駆動すると、3種の声が加速する。
「誰も助けちゃくれないよ
置いてかれないように努力をしたって
誰も見てない
結局 俺達はただ制御できずに運転してるんだ
何度 起きた って 聞こえるのはクソノイズだ
履き違えるな 俺達はなんでここにいる?
個性を吹かすためだろ」
加わる2人の声が切れ、アクセルの声が、パッシングとして続く。
「率直に話したいだけなんだ
下手くそな喋りだとしても
けど フリーズすんだよ
居場所がなくなると思うと
考えに考えて
明日の自分のために何マイルも抜けたのに
ガス欠だ」
声は再び3重になり、熱した空気に荒波を立てた。
「平和を求めた最初のキッカケは何だったんだ?
殺し合いを吹っ飛ばしたくてキーを回した
Uターンしたほうがいい もっと もっとだ
昔のベストを吹かしてみろ!」
途端、ブルースの突き抜ける声をクラクションに、サビの幕を払った。
「誰も助けちゃくれないよ
置いてかれないように努力をしたって
誰も見てない
結局 俺達はただ制御できずに運転してるんだ
何度 起きた って 聞こえるのはクソノイズだ
履き違えるな 俺達はなんでここにいる?
個性を吹かすためだろ!」
サビを終えてすぐ、ノイズを出せと、観客一帯を煽った。
ここまでのアクセルによるハイビームが下りると、3人のセッションが、違反速度に達していく。
ブルースの増えて見える指が、タイヤのブレーキ音を、これでもかと掻き立てる。フォルムに格好をつける事はしない。長く、永久的に響かせようとするスタイルは、どこか古臭さがあった。全身を大きくしならせ、ギターを下部で抱えるアーティストとの違いを魅せる。
レイデンは、首で軽くリズムを取るだけで大人しい。コーラスパートが終わる度に、エネルギーを放出し続けるドラムに近付いている。彼は、メロディとビートを橋渡ししていた。バンドの底の底までも支え、一度荒く排出した音を整える。そのまま、車体であるメンバー内に溜まったガスを、マフラーから抜き、終盤に向けて曲を持ち直していく。
ジェイソンのタイピングに似たヒットは、レイデンの音と綺麗に合わさっていた。速さと安定さ、力強さは、序盤からブレない。曲中に散りばめられたキッカケを取りこぼさないよう、また、たとえメンバーが咄嗟にブーストを効かせてしまっても、自分が冷静さを取り戻せるようにする。いつだって、冷却装置である事を忘れない。
観客の高々と上がる腕の動きが、校舎までもを歪ませていく。爽やかな朝を殴り、秋を散り散りにさせ、夏を広げた。
練り動く音と空気の中で、アクセルは、ふと、観客を見回す。間が空くと意識してしまう癖は、合図を聞き逃しかねない。それ程までに影響を与えてくる彼女は、今日も、どこにもいなかった。廊下にも、窓の外にも、その姿は、眩しく浮かび上がってはくれない。恥ずかしそうにしながらも手を振る所を見たかった。その、徐々に落ちていく感情を音にしていく端の2人を機に、マイクを取り直す。
「言い出せない苦しみがあるのに
上手く生きられなかった
誰かは他人の普通を強いられ 悪に変えられた
|平和を求めた最初のキッカケは何だったんだ?
笑って人生を突っ走りてぇ!」
歌詞の終わりを際立たせるブルースのスクリームに、ヒットの連打が被ると、歓声の豪雨が降る。4人は、折り返した道路を一気に飛ばした。
「誰も助けちゃくれないよ
置いてかれないように努力をしたって
誰も見てない
結局 俺達はただ制御できずに運転してるんだ
誰も教えてくれないぞ
俺達が教え 導いてやらない限り
さぁ吹かせ!
誰もかれもを巻き込んで イかした車に乗せてやれ!
いけ!」
最後のサビに勢いをつけると、速度が落ちていく。
「俺達が欲しいのは 本当の事に満ちた日だ
俺達が欲しいのは 自分らしく生きられる日だ」
3人の、交互に飛び交う緩やかな声が、惰力の走りを見せる。繰り返されるそれは、観客とのコールアンドレスポンスに変わった。締めがそこまで迫ろうとも、ジェイソンは急かさない。
観客の動きは、空気を渦巻かせながら、永遠のサウンドを求める。パーキングに入ろうとする4人が惜しく、繰り返される歌詞を叫び続けた。が、ここまで岩の姿勢を崩さずにいた教師の視線が、いい加減にするよう貫いた時――
「さぁ鳴らせ! 俺達はその誰かになる!
さぁ鳴らせ! ああああああああ!」
ジェイソンのヒットで、ギアが完全に落とされると、吹かし疲れたブルースとレイデンの音が伸びて響き渡る。余韻を飾るシンバルは、じきに、端の2人が愛機を掲げると同時に、エンジンを乱暴に切った。
鳴り止まない歓声の中、次のターンのバンドは、迷惑そうに眉を寄せる。一仕事を終えた4人は、日常の様子から打って変わって、いつもエネルギッシュな音を放ち、校内で目を惹いていた。
教師は愛想笑いを浮かべ、軽い称賛の拍手だけに留めると、次のバンドを呼ぶ。その一方で、4人にバンド名を訊ねた。だがその声は、未だ響き渡る生徒のどよめきに埋もれていく。
「いい加減にしろ。用が済んだら戻れ、他のクラスに迷惑だ」
教師の声や、騒がしい生徒達の間を縫って進むジェイソンは、早くも廊下に出て行く。
「ジェイ、助かった! 放課後も頼んだぞ!」
ブルースが慌てて声を張ると、ジェイソンは振り向かず、手だけで了解を示した。
歓声が静まる中、レイデンが歯に舌を這わせ、悪魔の揶揄いを見せる。
「ようアックス。お前、間がありゃ勃たせんのか」
とんだ勘違いに、アクセルは睨む。ぼんやりしている様に見えるレイデンは、常々、細部にまで目を光らせている。演奏を終えると、大抵いらぬ事を言うのもお決まりだ。
その横では、教師が質問に答えろと言い放つのだが、傍にいた別の生徒が笑った。
「先生、知らないの? 彼等はバンド名がない。まぁそうね、NEO CLASSICとでもしておけば?」
曲自体は現代的でありながらも、バンドの姿は古典的であるという噂があった。着飾らず、シンプルさを通す彼等は、身体を気遣う演奏スタイルをするあまり、中年ではあるまいしと揶揄われていたりもする。だが、アクセルのマイクからは独特さを感じ、珍しいと話す生徒の声がした。そんな容姿と曲の形態のギャップをさらすバンドに、周囲はつい振り向いてしまう。不思議と、彼等が一時的に生み出す空間の一部にさせられてきた。
そんな謎めいた魅力を、教師は特に知ろうとはせず、端の生徒に提案された適当なバンド名を、既定の欄に書き留めた。
※主にLIVE版を参考に書きましたが、合間はそうでない通常版の歌い方も混ぜてます。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
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