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椅子が倒れるのも構わず、ジェイソンはアクセルの元へ駆けた。レイデンとブルースは、事態に動揺を隠せず、目配せをする。
4人は、ステージの面で警官と向き合った。これに不安を覚えたレイラもまた、彼等の傍へ急いだ。
警官とアクセルのぶつかる視線が、仕上げた空気を呆気なく、周囲の騒ぎに塗り替えてしまう。
「アクセル・グレイだな。ご両親からの連絡を無視するとは、まだ反抗期か」
警官の尖った声は、緊張感を煽る。アクセルは、端の3人や、足元のレイラの視線を感じていても、警官から目を逸らさなかった。
「なかなかね。肩身が狭い暮らしをしてるもんで。部屋を見たいんだろ? 乗せてってくれるなら、その前に近くの森林に寄って」
「アックスどういう事!?」
「何言ってんだよ!?」
痺れを切らしたレイラとブルースの声が重なる。レイデンとジェイソンは、引き攣った顔のまま、目だけで警官とアクセルを往復する。
「その様だな。だから君のお父さんも、努力をしたみたいだよ。しかし、残念だ。部屋はもう見せて貰った。署に来てもらう」
「待って! 何かの間違い! 彼は何もしてない!」
レイラは取り乱し、警官に喰ってかかる。アクセルは、ふと、ステージから降り、彼女の肩を取った。レイラは、冷静過ぎる彼すらも、何とか言えと揺さぶってしまう。
アクセルは、優しく細い息を立てると、彼女の手にサングラスを預けた。そして、続いて降りてきたメンバーの、困惑する顔を見回す。
足先からの震えは、ライブのものとは明らかに違っていた。寂寥と不満の激しい唸りが、熱となって胸から込み上げてくると、刻一刻と、身体を侵食してくる。血管を流れる、マグマと化した感情は、じきに、自分を次のステージに導こうとしていた。
警官の腕が、いよいよアクセルの背に回った、次の瞬間――レイデンが飛びかかり、その腕を引き剥がした。彼は血相を変え、警官に掴みかかろうとする。だが、ジェイソンがその身体を羽交い絞めにし、レイデンを引き離した。ブルースは、レイラをマスターに頼むと、出口に向かおうとするアクセルの前に出て、咄嗟にその胸を突き返す。
「“アホ!” 俺等が黙って見送ると思ってんのか!? ならイかれてる!」
その時、外で待機していたもう1人の警官が現れると、ブルースを脇に押しやった。だが、暴力的な声を轟かせたレイデンが、ジェイソンから半身だけを振り解き、アクセルを連行する警官を再び掴んだ。警官は、冷静にその腕を掴み返す。
「君、それ以上は止めるんだ。友達のためにも」
「抜かせクソが! お前等のところに、こいつが行く訳ねぇんだよ! 適当な仕事しやがって、どこに目ぇついてやがる! その汚ぇ手ぇ今すぐ放せ!」
「レイデン!」
ジェイソンの怒鳴り声に、レイデンは崩れかけても、遠ざかるアクセルを声だけで引き止め続けた。
追いかけようとする鋭い声が、湿っているように感じた。友人の苦痛に締めつけられるあまり、アクセルは、足を止めてしまう。警官に押されるのに抗うように、足は、前に行こうとしない。そして、今にも漏れそうになる荒い息を呑むと、そっと、肩越しに振り返った。困惑に陥れられた皆を、眼差しだけで鎮めていく。
「頼んだ……また、後で……」
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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