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ステージのみならず、客席も沢山のパフォーマーで賑わっていた。2組のリハーサルが終わり、スタッフ達は、3組目に向けての準備をしている。
当日のイベント参加者の1曲が聴ける、宣伝を兼ねたサウンドチェックは、多くの客を呼び寄せ、席の半分少しが埋まっていた。大半は大人だが、同年代の姿もあり、いい反応を期待したいところだった。
順番は特に無く、スタッフの準備次第で適当にグループが呼ばれる。後から合流予定だったレイデンとブルースは、ステージ脇のソファー席で、アクセルの戻りに首を長くさせていた。意外にも、彼がレイラと現れた事に、2人の曇った表情に光が射す。
「あんまり遅ぇから、暇つぶしに散歩に出ちまったじゃねぇか」
アクセルは何事も無かったように、いつも通りの調子で言うと、ブルースが呆れて首を振った。
「それは無しだ。補習のお陰で、レイラがいんだぜ?」
「感謝しろ。俺等が連れてきてやったんだ」
続けて飛び込んだレイデンの発言に、アクセルは目を瞬き、レイラを振り返る。彼女はとぼけた表情を浮かべると、小さく、自分も補習を受けていたのだと零した。
「運命ね! たまには頭が悪くてもいいもんだわ!」
3人の笑いの渦が巻き起こると、アクセルは、それに追いつこうと乾いた笑みを浮かべる。
「ああ、それなら俺も、もう少しすっぽかしてればよかった……」
そうして、つまらなさを顔に滲ませたアクセルに、ブルースは指を突き立てる。
「そう、ハイスペックだとよくないぜ。これ、俺の今日1の学び」
それを聞いたレイラは、クスクスと笑う。アクセルは耳を擽られた。昨夜、彼女が話していた言葉が、芽吹く様に思い出されていく。
ところでジェイソンはどうしたのかと、アクセルは周りを見て訊ねた。レイデン曰く、仕事依頼を受けているグループと、スタジオで話しをしているようで、もうじき戻るそうだ。レイデンの手には既にベースが握られており、姿勢が整っている。隣では、ブルースのギターが、店内のスポットライトで光を放っていた。
「そういやお前、買い物って服かよ。止めとけ、同じジャケットばっか。センスのねぇ宗教だ」
レイデンの揶揄いを、アクセルは笑って聞き流し、マイクのセッティングをしていく。ウォームアップはしていないが、この場の空気と香りがあれば、十分頼れる。今の環境こそ、最高のコンディションだった。
1つ1つの細かい粒を感じ取る様に、耳と鼻を研ぎ澄ませる。この場の一部になり、全員の脈を響かせる。振り向かせ、サウンドの存在感を、自分という生き物を、焼き付けてやる。アクセルは、声を殺しながら心の熱気と向き合う眼差しを、サングラスの下で、鋭く光らせた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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