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*完結* COYOTE   作者: terra.
Waxing Gibbous
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8




『勝手にすりゃあいいが、推奨せん。今朝もステファンは、また追いかけてやがる』



 アクセルは眉を寄せ、声も無くその理由を訊ねる。クランチは呑気に毛繕いすると、身体を振って銀の被毛を立たせた。



『射撃された恨みの臭いがする。あいつが最も嫌うもんだ。致し方ねぇだろう』



 アクセルは、込み上げる不安に首が自然と振られると、クランチを揺さぶった。



「頼む、すぐに探して阻止しろ! 警察が彼を撃っちまえば、壊れるのは彼だけじゃない!」



 人であり、獣である。想像を絶する事態に人生を狂わされた今、恨みも当然ある。だが、この運命が何を意味するかを考えた時、糸を手繰り寄せる様に、自然とこの事態に関わる一家に想いを巡らせていた。同じ身体を手に入れた者として、何かできることがある気がした。



「クランチ、お前も生き物だ。それもスマートだろう?」



 クランチの耳に角度がつくと、背筋が伸びた。



「好物ができて、それに惹かれる。食いたいから、そのために動く。そして満たされる。今は、なかった名前を持って、俺と距離を詰められる。人と同じ様に表現し、選択ができる。逃げる事や、戦う事だってする。これは全部、人と同じ、生きるためだ。仲間ができる事も。

 ステファンは今、お前と俺の仲間だ。彼を止められるのは、俺達しかいない」



 クランチは眼を尖らせ、鼻だけで静かに息をすると、口角を吊り上げた。



「無駄なお遊びってか」



 読み取り難い感情から適当に代弁すると、アクセルはクランチを手放す。手応えのなさに溜め息を吐き、これ以上は時間をかけられないと、飛び下りる姿勢になった。そしてもう一度だけ、気になっている事を訊ねた。



「同じ生き物だからこそ、俺やステファンは……お前や他の動物達は、本来の身体に戻るべきじゃないのか。解決手段は何だ」



 クランチは隣の木に飛び移る。陽光を被毛に受けながら華麗に弧を描く姿は、流星そのものだった。

 その姿を目で追った時、アクセルは、他に3頭のコヨーテがいることに気付いた。遠い枝に点々と立ち尽くす彼等の眼は、こちらを鋭く貫いてくる。




 しかし、アクセルはこの光景に、胸で首を傾げた。以前はもっと沢山いたはずの彼等は、この瞬間に3頭現れている、という訳ではない。明らかに減っている――そんな気配が、はっきりと感じ取れた。



『……てめぇが騒ぎ過ぎたせいで、お望みのモンは、もう嗅ぎつけてやがる』



 クランチの濁った声に、アクセルは銀の瞳を見開いた。が、クランチはすぐさま言葉を遮る。



『だがなアックス。この世に残された時間は所詮、僅かだ。どんなに足掻いたとて、大地は人間を――己をも、赦さんと決めた』



 アクセルは、鉛が深い底まで沈むような重苦しい感覚に、何も言い返せなくなる。その時、ふと周囲に視線を配ると、他のコヨーテの姿はもう、どこにもなかった。




 クランチは腰を上げると、耳を動かし、どこか遠いところに意識を向け始める。その横顔に、アクセルは微かな困惑を見たような気がした。



『お望みのモンも、呪われた道具に過ぎん。それもまた、そちらさんで言うところの善意がもたらした、罪。我々を消し飛ばしたとて、時は必ず来る』



「何が言いたい……」



 アクセルは、先を行こうとするクランチの尻尾を、声だけで掴む。



『神が受けた同じだけの犠牲を払え。もう一度、この世を目醒めさせたいのならば――』



 クランチは言いながら、顔に満面の嘲りをあらわにすると、陽光に溶け込む様に枝を渡り、銀の靄に姿を消した。




 アクセルは、クランチが消え去る姿よりも、もっと別の何かを、木漏れ日の中で見つめていた。何1つ特徴を得られていないが、胸騒ぎとして、確かに記憶に残った。自分とステファン以外の、もう1つの道具――希望と呼べるかもしれない存在が。









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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつも投稿お疲れ様です☆ クランチは中々、気難しい性格をしてますね。 そもそもクランチはアクセルを味方として認識しているのかも疑わしいです。 非協力的と言う事は、味方以前の問題ですし、良…
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