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夜のシフトだったテレサは在宅しており、半休だった別居中の夫、マークが訪れているところだった。彼は先週末、息子のアクセルに押され、改めて妻と話しをしていたところだった。ところが、妻のスマートフォンに入った連絡に、揃って耳を疑わずにはいられなかった。
急な警察からの連絡に、テレサは困惑する。息子が襲撃事件の鍵を握っている可能性があるとされ、本格的な捜査依頼を進めるという、半ば強引なものだった。唐突のあまり、緊急入院した際の検査結果や、近頃の息子の様子を並べ立て、息子が事件に関わる理由などないと、強く出てしまう。冷静さをすっかり欠いてしまっていた。
スピーカーにしたスマートフォンから聞こえる刑事の口調は、声は穏やかなものの、話が進むにつれて急いている。家宅捜査の令状が出されたと言うのだ。
「一刻を争う事件です。息子さんに速やかに帰宅するよう言って下さい。聞きたい事があります」
テレサが更に捲し立てかけた時、マークが透かさず割り込んだ。
「一体何をです? あの子が街で何かしたとでも? 事件のことなら、息子は巻き込まれた側だ。何もしていない」
彼は、口を開きかけた妻を追い越し、刑事に被せる様に告げる。だが
「我々に伝えていないことでもおありですか」
間髪入れずに刺し込まれる刑事の言葉に、その場は一時凍てついた。夫婦は互いを見合い、随分な言い掛かりに、胸の奥が怒りに熱くなる。マークは立ち込める感情にどうにか蓋をすると、思いつく限りのことを言い返そうとするも
「ええ。もちろん息子さんは被害者だ。お気持ちはお察ししますとも。だが、気になるのはその後です。もう直ぐそちらに伺いますので、近頃の息子さんの事を、改めて詳しく教えて頂きたい。後ほど」
夫婦が何かを言う前に、通話は切れてしまった。
テレサは声を失い、青褪めると、足先から震えが迸る。
「あの子が何するの!? あの子は真っ直ぐで、真剣に考えて行動する子よ!」
マークは彼女を肩から抱き寄せ、擦りながら落ち着かせた。
「分かってる。俺達の子だ、何もするもんか。だが、状況が状況だ。アクセルに連絡はしないといけない」
「すぐ出るか分からないわよ、放課後なんて特に……」
「それでもだ。いずれにせよ、あの子はちゃんと帰って来る。いいか、開口一番に部屋を見られるぞって言うんだ。そしたら、すっ飛んでくるに決まってる。年頃の子の部屋は、親すら入れない聖域だぞ? 君だってそうだったじゃないか」
「セキュリティーシステムを幾つも搭載したいくらいだったわっ……親が聞いてくれないから、自分で直接電話したっ……」
「そう、そしたら君が出禁になって、俺と会えなくなった。君が門番をする方が一番有効だったんだよ。両親は冴えてるもんだ」
それでも、空気は和んではくれなかった。テレサは、震える手でアクセルに電話をかけた。
乾いた風が窓を叩く音に、夫婦は肩を弾ませる。まるで、この状況をどこか面白がっている様で、遠くの空では陽射が隠れていく。薄暗くなる家の中、夫婦は小さくなりながら身体を寄せ合うと、色を失くした楓が、遠い灰色の空に消えた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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