2
アクセルは、まだまだ中身を見せてくれないジェイソンの横顔を覗う。馬鹿な部分を見せたりしない彼は、メンバーの締め色の様だった。
「さぁどうだか……昨夜のあれだって、ちゃんと歌えてたのか……今思えば、バカな事したんじゃねぇかな……」
「レイラか」
飛び込んできた言葉に、アクセルは目を見張る。ジェイソンは彼に、何をとぼけているのかと、呆れを滲ませた眼差しを向けた。
「喋り過ぎたんなら遅い。歌えたなら、よかったんじゃないのか」
それからどうしたのだと、彼の静かな促しを察したアクセルだが、言葉に詰まってしまう。曲中に本心を込めなかったのは、歌に頼りたくなかったからだ。
「いや、遅かったよ……彼女は俺に、あんなに真っ直ぐ、愛させろって言ったのに……」
この場に彼女がいるかの様に、その温度や震えを感じる。ほんの僅かな時間に、色々な顔を見た気がするが、焼きついているのは涙に濡れた表情だった。窓にその顔を見ては胸に沁み、あまりの痛さに瞼を閉ざしてしまう。
「お前の歌に押されたからなんじゃないのか。聞いた感じじゃ、昨夜のキッカケはお前だったと思うがな」
信号待ちになると、ジェイソンは、顔が曇ったままのアクセルに向く。
「お前はその時、今だ、と思って出ていった。遅ぇもんか。お前にとって最速で、最高のクオリティーで伝えられる瞬間だったから、足が動いた。そこに涙があったかもしれないが、お互いがお互いを欲しがって、それが叶ったんなら、馬鹿なことな訳あるか。それが2人の形だ」
前のめりになる言葉を聞いた瞬間、アクセルは、そこに別の言葉が重なって聞こえた気がした。誰の言葉だったかは思い出せないが、手帳の中で文字になっていたものだ。その綴った言葉もまた、ジェイソンがくれる熱意によく似ている様に感じた。
「ハッキリしたもんを求められる事もある。それをするのが難しいのは、俺も知ってる。苦手だ。けど、お前はそれに近いもんならできて、いざやってみたら、レイラは受け入れた。理由は、ただお前だからだ、アックス。どんなスタイルのお前でも、レイラはきっと受け入れる。表現にこだわり過ぎるな。お前が愛してる事なんて、彼女はとっくに分かってる」
見ているこちらが分かるほどなのだからと付け足すと、ジェイソンは発進した。
僅かな間が空くと、彼は小さく笑い、アクセルの髪を乱してやる。アクセルは、その手になんとなく父親を重ねてしまっていた。
「参ったよ……録りたいから、もう1回言ってくれ」
「それは、馬鹿だ」
間髪入れずに言い返すジェイソンに、アクセルは声だけで笑うと、彼がくれた言葉を慌てて手帳に書き留めた。
-----------------------------------------
サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め
気が向きましたら是非