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レイラは、アクセルの隠しきれない震えと涙をそっと包み、拭っていく。手元に強く押し付けられる手帳を取った拍子に、受け止めた涙がそのまま同じ様に零れてしまうところ、ふと、笑った。
「“ハイドアンドシークは、私が一番強い。だから、貴方がどこに隠れようが、忘れてしまおうが、私は必ず貴方を見つけ出す。でも私の場合は、貴方がちゃんと見つけられるように、近くにいる。貴方の声が聞こえ、触れられる距離に――」
レイラはペンを止めると、洟をすすり、アクセルに額を当てたまま続けた。
「だけどアックス……貴方にもそうしてもらいたい。何処へも行かず、ここにずっといてよ。明日、世界が終わるかもしれないって言うなら、尚の事……最期まで、愛させて”」
レイラは、1ページいっぱいに、声に出した言葉を記した。そして大きく、レイラ・ガルシアとサインを残した。
アクセルは漸く、心の栓が抜けた様に、どっと肩を撫で下ろす。だがレイラは、涙を流したまま、眉間に不安を刻んでいく。
「何で、握り返してくれないの……」
その言葉を受け、アクセルはほんの僅かに力を加えた。
「力が抜けるだろ、そんな事言うから……」
アクセルは微笑むと、レイラの頬を柔らかく拭い、そのまま頬を軽く押しつける。そして、小さく絞り出した。
「君は最高で、綺麗だ……」
レイラは頬を寄せ返すも、彼はあっさり離れてしまう。その顔色は、痞えていたものが取れたのか、すっきりしていた。だが、こちらの不安は膨らむ一方だった。彼はまるで、どこか別のところを見て話している様だった。
「アックス」
立ち去ろうとする背中に、妙な影が歪んだ様な気がして、呼び止めてしまう。そして、また明日と、守れるかどうか分からない約束をしかけた時。彼は、いつもの様子で振り向くと、爽やかに笑い返し
「おやすみ」
この時間にピリオドを打った。
*
現場検証での収穫はなく、被害に遭ったレンジャーと警官の目撃情報だけが頼りだった。
高校生と見られる少年が、銀髪の姿で現れたというものであり、それは、過去の被害者の証言である銀の光の現象と一致していた。
未だ寄せられる多くの目撃情報を、別の地域からのものと合わせて調査しようと、署内は忙しない空気で犇めいていく。
「被害者が見たとされる、銀の液……それが体内に入った場合、豹変するとすれば」
男性刑事が呟く横で、女性刑事が関係資料を広げ、部屋のスクリーンに、北の地域での被害情報を映した。
「先週の土曜日に、容疑者と接触した少年のデータよ。レンジャーと警官が見たとされる少年と、特徴は近い様に感じる。ただ、当時彼が受けたどの検査からも、金属的な色のものを含めて、異常は見つかっていない。それに、事件現場である彼の自宅の庭からも、何も発見されなかったとあるわ」
男性刑事は唸ると、少年とステファンの接触における時系列を見た。
「……潜伏期間があるとすればどうだ。少年の現状や、次の検査日は?」
ステファンと少年に起きた異変のタイミングを比べてみても、両者には圧倒的な差があり、刑事は疑問に顔を歪める。だが
「彼にまつわる新たな通報は無い。当時の事情聴取の後、医師の話では、経過観察の判断が下りてて、検査は今週末の予定になってる」
男性刑事は暫し思考を巡らせると、少年が一時入院した病院にアポイントを取ることにした。
※ハイドアンドシーク=かくれんぼ
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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