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*完結* COYOTE   作者: terra.
First Quarter
144/184

17




 レイラは、アクセルの隣に腰を下ろすと、ギターを久しぶりに見たと言いながら、そのヘッドに触れた。



「弾けるじゃない。ライブでもまた見れる?」



「弾かない。自分でも分かるよ。歌う方に夢中になる。きっと向いてない」



 それが自分なのだと、アクセルは、どこか清々しい気持ちで口にする。

 そんな、ギターをクッションの様に抱える彼の横顔から、レイラは口を尖らせる。



「また。どうせブルースが煩いんでしょ。言ってあげようか? 師匠気取りも大概にしろって。ついでに、ハイスペック過ぎると、かえって近寄り難いって事も。控え目か、不器用なところがあるから安心するのよ」



 アクセルは、小さく鼻だけで微笑んだ。いつか、ブルースがほんの少しだけ話してくれた、彼自身の苦労を思い出した。



「そうだな……それは、言ってやっていいかも」



 レイラは、どこか遠くを見ながら話しをするアクセルから、自分に向くギターヘッドに視線を落とす。



「で? 何してるの?」



 冷たいはずの風は、ずっと温かい。秋から春に変わっていく様な現象。何故そう感じるのかが分かった気がした途端、アクセルは、邪魔なギターを脇に退かした。そしてレイラに身体を向けると、互いの足元が触れた。




 彼女は首を傾げている。何かを求めて見開く眼差しには、どこか心配が滲んでいた。その一方で、輝いても見える。緊張に揺れる瞳があらわすものは、何なのか。答えが欲しいまま、そこに手繰り寄せられていく。




 レイラは、こちらを見つめてくるアクセルが、言葉を探している様に感じた。近付くだけで、会話の間を詰めようとしない。そういう不器用なところが可愛いらしかった。本人はそこに困っているようだが、自分はそれに寄り添いたいあまり、その手を取ってしまう。



「さっきの歌は……誰かに……?」



 アクセルは困り果てた笑いを浮かべると、首をふらふらと横に振った。嫌な質問に呆れるよりも、激しく突き上げてくる苦しみを振り払いたかった。




 ここに座って歌う事以外の目的を、意識しない訳にはいかなかった。力の加減ができねばならない。そのためには試す他はなく、だんだん、身体が震え始めた。それをどうにか体内に押し込みながら、レイラの額に、そっと自分の額をあてがう。ゆっくり、慎重にするのだと、目を閉じて集中した。



「聞くなよ……分かるだろ……」



「知らない。ちゃんと教えて……何て歌ってたの……」



 レイラもまた、震えを感じた。自分のものなのか、彼から伝わるものなのか、その境目が分からなかった。目を開けるのが怖いというよりも、見ていられる自信がなかった。反射的に取っていた彼の手に、力が入ってしまう。



「綺麗だって話だったろ、聴いとけよ……」



「誰の事……」



 胸が疼いた途端、アクセルはレイラの肩に顔を埋めると、頭から抱き寄せ、髪を掬う様に掴んだ。

 何かが全身を締め付けてくる。それに抗うにつれ、胸が痛みに声を上げ、涙が滲み出す。それを隠そうと、ひたすら彼女を――嗅いだ。




 レイラは、アクセルを呼び切れないまま目を見開く。激しい鼓動に、体勢を崩しかけた。大きく絡みつく彼の腕を、反射的に掴んでいた。動揺に眉が寄るも、そのまま彼を取り込んでしまう。

 一体何が起きているのか――それを確かめようとしても、意識が乱れてしまう。彼の吸い込んでくる息が耳を包み、その裏に回ると、首筋を下りていく。うなじに頬を感じたかと思えば、すぐに離れてしまう。それが続く最中、呼吸を逃し、息を吸う隙を見つけるのに精一杯になる。




 身体に取り込みたい。たとえ嗅覚が狂おうとも。それでもアクセルは、胸の奥から熱く湧き上がる力に、接触の限界を感じた。その心細さが、滴になってしまった。



「レイラ頼む……頼みがある、お願いだから聞いてくれっ……」



 急な言葉に、レイラの熱はやっと引いていく。そして、様子が変わったアクセルに、不安の眼差しを向けた時。差し出された手帳とペンに、はっとする。



「何でもいい……何か書いてくれ……君だけは忘れたくない、頼む……俺が探せるように……頼む……」








※プロローグから4ヶ月が経ってしまったのですね。そのページでは、どんな彼の姿があったのか。新章から終盤を迎える今、記憶の呼び出しに、少し振り返ってみてもいいかもしれません。



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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつもお忙しい中、投稿お疲れ様です☆ アクセルとレイラの仲睦まじいシーンでしたね。 レイラは誰のための歌なのか、と聞くと、アクセルは少しはぐらかすようにレイラのだめだと言ったようなもので…
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