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「親になる事がどういう事なのか、私にも、あんたにも分かりはしない……きっと、ていうか絶対、心配でたまらないはず。それは私もソニアも同じだけど、母さんはそれ以上に感じてると思う。父さんだって……」
だから、どんな事があっても共に過ごす時間を割くべきだろう。キャシーは、弟に静かに告げた。アクセルは胸の中で、姉が言わんとしている事をじっと噛み締めた。
「分かった、ごめん……落ち着いたら下りる……」
既に、以前の自分は崩れかけている。それでも、家族の前では普段通りでありたかった。
キャシーは頷くと、それ以上は言わずに弟を後にした。背中にデスクからの光を受けても、何の温かみも感じなかった。未だ、多くの心配と不安の影に占める自分自身に、俯いてしまう。
いい意味で弟は変わった。そう感じた矢先、隔たりを感じる異変。自然にできているというよりも、本人が敢えてそれを立てている感覚。何故その様な事をするのかと問い詰めようとして、止まってしまう。それは、部屋に入る前から続いていた。
「早くしなよ」
今度は喧嘩という形ではなく、冷静な話し合いで、お互いを知っていきたかった。今は、それができるよう願うしかないと、何かに打ち込む弟の姿に蓋をする様に、ドアを閉めた。
その音に、アクセルはそっと振り向く。姉が立ち去る音が聞こえるものの、まだ傍にいる様な気がした。姉がくれる温もりや、優しい香りが残っているからなのだろうかと、カップを口に運ぶ。
コンポからバラードが流れ始めた時、視線が自ずと、ベッド脇に佇むギターに向いた。そのまま、身体がそこへ引き寄せられていく。
落ち込んでいるそれに呼ばれている様な気がして、冷え切ったネックからボディに触れた。目は、求める様に窓の外を見ようとする。その時、互いのレースカーテンとガラスの隔たりを、1つの電球色の光が貫いた。
そこに、彼女がいる。
アクセルはギターを掴むと、手帳を攫って部屋を飛び出した。
アクセルが予想外に早く顔を出し、キャシーと母は思わず彼を振り返る。その後から、部屋にいたソニアが、ギターを持つ兄を見るや否や階段を駆け下りた。
急に賑わうリビングに、母は胸をなでおろしながら言う。
「演奏でお詫びなんて、いい息子を持ったものだわ――」
「悪い母さん、後で!」
ドアが閉まる音に言葉は突き放され、残された3人は、口をあんぐりさせる。と、ピンときたソニアとキャシーは、キッチンの窓に群がった。手前に並ぶ雑貨が転がるのも余所に、アクセルの行き先と行動に、興奮に目を光らせる。母は呆れ、娘達をダイニングに引き込んだ。
「止めなさい、いやらしい」
悪戯する猫の様に摘まれたソニアは、母に耳を疑った。
「お母さん気にならないの!? 息子は最後の彼氏よ!? いよいよレイラのものになっちゃう!」
そしてキャシーは、母の腕から擦り抜けると、間髪入れずに弟に目を見張る。
「ねぇあの子、服着替えてた!? ネズミ触った格好だったら最悪! レイラよりも、おばさんが噴火するわ!」
母は溜め息を吐くと、2人の間に割り込んでは、乱れたカフェカーテンを整え、息子達を優しく遮った。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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