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やりとりが終わると、噂のジェイソンからも通知が入っていた。他の誰よりも、彼が先に連絡をくれていた。
“当日どうするか、無理にお前に決めさせるつもりはない。ブルースが言った事は事実だ。お前が向き合う問題は、俺達の問題だ。できる限り同じ位置に立って、同じ景色を見て、議論して、一緒に決めればいい。それでも決め切れなければ、或いは決めたくなければ、その時は俺が決めてやる。だから何も心配しなくていい。俺も、皆も、きっとレイラこそ、傍にいる”
ジェイソンとも、殆どメッセージを交わした事がなかった。先手を打つ言葉の1つ1つは、まるで薬を丁寧に塗る様だ。優しいタッチであるものの、効き目は鋭く沁み渡り、込み上げてきたものが零れ落ちた。
誰よりも冴えていて、落ち着いている。一体、どこまで予測して話しているのだろうかと、後の2人とはまた別の心配が膨らんでいく。
気付けば、多くの疑問を入力していた。感情的になった文章は、そのまま電話で伝えた方が早いだろう。だが、一度顔を拭った。
募るものをぶつけたとしても、彼は綺麗に捌くに違いない。妙に考えさせる事に繋がる文章は避けたかった。
“助かるよ。もしかすると、頼るかもしれない。いつもありがとう”
これでも、きっと探られそうだ。でも、丸ごと消した長文を返すよりは、ずっとマシだろう。そう思う事にしようと、アクセルは漸くスマートフォンを置いた。
あらゆる感情が、大きな球の様になって浮かんでいる。これまでもずっと、意識していないだけで、それを抱えて生きていたのだろう。こんな事になるまで、深く、強く感じる事がなかった。それにどれほどの重みと温度があるのかも含めて。
膨大な感情がどんな色で、どんな手触りか、それもまた、想像しながら書き留めていく。そしてレフィルを足した時、ノックの音がした。
返事も待たず、姉が片手に飲み物を持って現れた。何か言いたげである事が、顔にそのまま滲んでいる。それらが影を作ると、姉を暗い家具の一部の様にしてしまった。
「母さんが、好物だって言うもんだから」
「……アボカドには見えないな」
「ソニアは、変なミックスジュースだって。ならそれに乗っかって、アボカドを入れようかも考えたけど、さすがにそれは、アボカドが可哀そうでね」
いつまで言うつもりだと、アクセルは椅子に大きく凭れ、目だけで用を訪ねる。それも束の間、互いの笑い声が、暫し空気を和らげた。
友人からの熱い言葉に浸っていたというのに。アクセルは、崩れかけた自分を隠す様に、顔を逸らした。そして、口が勝手に姉にレフィルの買い足しを頼んだ。
キャシーは、弟が使っている手帳に目だけで驚くと、使いかけているレフィルを譲ると言いながら、カップをデスクに置いた。
立ち込める香りは、以前よりも強く、鮮明に鼻の奥を突いてくる。アクセルは、光を揺らす鴛鴦茶の表面を見ては、姉に振り向いた。
「私達の場合、多分、いくらでも喧嘩してお互いをぶつけ合える。でも、母さんはそうじゃない」
真剣な面持ちになる姉の目は、微かに震えていた。
※鴛鴦茶の登場は久しぶりです。第二章で登場した、アクセルの好物その2。コーヒーと紅茶をブレンドした飲み物です。
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サスペンスダークファンタジー
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