表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
First Quarter
140/184

13




 笑われるだろうかと構えていたが、違った。通話が切れたかと疑うほど、ブルースは静かに聞いていた。見えなくとも、友人が今、どんな姿勢でいるのかが浮かんでくる。また、それを敢えて意識した。音や夢、友達、なにより今この瞬間と向き合おうとする、熱い彼を。



「当然、忘れねぇよ。でも分からない……分からないから、頼みたい……お前は、俺を探してくれるか……」



 アクセルは言い終えてすぐ、話が飛んだ事に気付いた。先に膨れ上がる不安に弄ばれてしまうと、いいや違うと、慌ててブルースに待ったをかける。だが、彼は



「分かった」



 その応えは、ふと、視界に膜をかけた。照らされるデスクや、並べている物の輪郭が、空気に溶けようとする。気さくに礼を言いたいのに、震えだす唇が妨げる。



「お前ぇみたいな思考が長けてる奴に、俺がしてやれる事なんか知れてる。任せとけ。それだけだ」



 ブルースはまた、間を置いた。アクセルは、この時間を何としてでも長く繋いでいたかった。目を拭うと、彼の言葉を手帳に走り書きする。そして、沸き起こる安心感に包まれながら、やっと礼を言った。ところが



「まぁ……いやぁちょっと待て、やっぱ聞くだけ聞いてくれよ!」



 数回往復した後、結局は引き止める。そんな様子のブルースに、服の裾を掴まれる絵面が浮かぶと、アクセルは小さく笑った。



「努力しろなんか言わない。単に知っておいてもらいてぇだけだ。その……俺は、この先もお前が同じ車に乗ってると思ってる。助手席かはさておき、だ!」



 珍しい発言にも少々笑えたが、ブルースの真剣な話に頷きながら、耳を傾けた。



「俺の車で、隣でお前が歌ってて、話しをしてる。俺の頭には、いつだってお前がいる。世界にいっても、いくつになっても……」



 自分を取り囲む言葉を、そのまま録音しておきたい。そう思いながら、アクセルは、彼の締めの言葉も書き留めると、ペンを置いた。



「分かったよ」






 そして明日の約束を交わし、電話を切ると、次の通知に目が留まった。殆ど対面でしか話さないレイデンから、メッセージが入っていた。



“お前ぇはよ、標準ってのを意識し過ぎだ。止めとけ、もっと突き抜けろ。んで、スタイルをかませ。そう歌ってんだからよ”



 サッパリしていたり、下品さが表れたりする彼だが、その言葉には、考えれば考えるほど頷ける部分があった。




 苦痛を経験しているレイデンだからこそ、持っているものがある。そして、躊躇わずそれを伝えようとする。彼こそ、誰かの薬になろうと懸命なのではないかと、今になって思った。




 いつか、レイデンにぶつけた言葉がある。つい先日、彼はそれを返してきたが、今まさに、その言葉の意味を乗せてきている様に感じた。

 標準であろうがなかろうが、関係無い。アクセル・グレイかどうかだと。そう解釈すると、気分がよかった。



“お前はいつだって、周りの見本になってるさ。俺もその中の1人。色んな意味で、目を離せないよ。ありがとう”



 送信して間も無く、彼はメッセージに飛びついたのだろう。すぐに開いてくれた事が分かった。心配をかけているのが露骨に思えたが、その途端、返ってきた言葉に吹いてしまった。



“ダディに言うな”









-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつもお忙しい中、投稿お疲れ様です☆ 今回は温かいシーンでしたね。 凄いホッとしました。 ブルースやレイデンはやはりジェイソンに口止めされていたんですね。 ブルースとの電話で車を連想した…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ