13
笑われるだろうかと構えていたが、違った。通話が切れたかと疑うほど、ブルースは静かに聞いていた。見えなくとも、友人が今、どんな姿勢でいるのかが浮かんでくる。また、それを敢えて意識した。音や夢、友達、なにより今この瞬間と向き合おうとする、熱い彼を。
「当然、忘れねぇよ。でも分からない……分からないから、頼みたい……お前は、俺を探してくれるか……」
アクセルは言い終えてすぐ、話が飛んだ事に気付いた。先に膨れ上がる不安に弄ばれてしまうと、いいや違うと、慌ててブルースに待ったをかける。だが、彼は
「分かった」
その応えは、ふと、視界に膜をかけた。照らされるデスクや、並べている物の輪郭が、空気に溶けようとする。気さくに礼を言いたいのに、震えだす唇が妨げる。
「お前ぇみたいな思考が長けてる奴に、俺がしてやれる事なんか知れてる。任せとけ。それだけだ」
ブルースはまた、間を置いた。アクセルは、この時間を何としてでも長く繋いでいたかった。目を拭うと、彼の言葉を手帳に走り書きする。そして、沸き起こる安心感に包まれながら、やっと礼を言った。ところが
「まぁ……いやぁちょっと待て、やっぱ聞くだけ聞いてくれよ!」
数回往復した後、結局は引き止める。そんな様子のブルースに、服の裾を掴まれる絵面が浮かぶと、アクセルは小さく笑った。
「努力しろなんか言わない。単に知っておいてもらいてぇだけだ。その……俺は、この先もお前が同じ車に乗ってると思ってる。助手席かはさておき、だ!」
珍しい発言にも少々笑えたが、ブルースの真剣な話に頷きながら、耳を傾けた。
「俺の車で、隣でお前が歌ってて、話しをしてる。俺の頭には、いつだってお前がいる。世界にいっても、いくつになっても……」
自分を取り囲む言葉を、そのまま録音しておきたい。そう思いながら、アクセルは、彼の締めの言葉も書き留めると、ペンを置いた。
「分かったよ」
そして明日の約束を交わし、電話を切ると、次の通知に目が留まった。殆ど対面でしか話さないレイデンから、メッセージが入っていた。
“お前ぇはよ、標準ってのを意識し過ぎだ。止めとけ、もっと突き抜けろ。んで、スタイルをかませ。そう歌ってんだからよ”
サッパリしていたり、下品さが表れたりする彼だが、その言葉には、考えれば考えるほど頷ける部分があった。
苦痛を経験しているレイデンだからこそ、持っているものがある。そして、躊躇わずそれを伝えようとする。彼こそ、誰かの薬になろうと懸命なのではないかと、今になって思った。
いつか、レイデンにぶつけた言葉がある。つい先日、彼はそれを返してきたが、今まさに、その言葉の意味を乗せてきている様に感じた。
標準であろうがなかろうが、関係無い。アクセル・グレイかどうかだと。そう解釈すると、気分がよかった。
“お前はいつだって、周りの見本になってるさ。俺もその中の1人。色んな意味で、目を離せないよ。ありがとう”
送信して間も無く、彼はメッセージに飛びついたのだろう。すぐに開いてくれた事が分かった。心配をかけているのが露骨に思えたが、その途端、返ってきた言葉に吹いてしまった。
“ダディに言うな”
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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