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アクセルは、自宅近くの自然公園に出ると、安堵の息と共に身体が戻った。疲労が一気に肩に圧し掛かる様に、大きくふらついてしまう。幸い辺りは無人であり、そのまま、夕陽に照らされる歩道を進んだ。すると、ゆっくりと迎えに訪れるかの様に、香りが記憶を運んできた。全ての始まりは、この道筋だったという事を。
何故、自分なのか。他の誰かならばよかった――そういう訳ではない。
全身に成長痛の様な疼きを噛み締めながら、このスタイルで今を生きる自分を、歩道を踏みしめる度に意識した。歩幅を刻む速さは普段通りであり、冷静でいられている。だが頭痛が酷く、これが後にどれほど影響するかを考えると、溜め息が震えた。
心が崩れている時は、何をするのがよかっただろうか。未だそれを考えられる事が救いだった。手放せないハタネズミを更にポケットの奥に突っ込むと、ウォークマンを取り出す。
電源を入れた画面のトップには、土曜日のライブと記されたファイルがあった。それを理解するのに少し時間がかかったが、最初の曲を流すや否や、川がせせらぐ様にスケジュールが蘇った。自分の声を認識し、その先の歌詞が浮かぶと、自然と小さく口ずさむ。
ところが記憶に物足りなさを感じ、手帳を取り出した。曲に込めた想いや、出来上がるまでに考えていた事、仕上がって人の耳に届いてからの願いがある。
音楽でできる事なんて、たかが知れている。でも、それを聴いた誰かの何かが動けばいい。自分達が放つエネルギーが、僅かであれ誰かの原動力になるならば、世界はきっと、まだまだ捨てたもんじゃないかもしれない。
「The world’s still worth living in……Hear the sound of breathing out……Trying to find something else……」
頭では分かっている。そして、例えそうではなくなってしまっても、口が覚えている。そうあってもらいたいと切に願いながら、顔を上げた。
「You can give up anytime,but wait more sec. till end of the song……Brand-new answers might be there……」
殆どネイビーで占めた空に、ふらふらと歌詞を並べるにつれ、鼓動が速まった。まるで先を読んでいた様な表現に、目頭が熱くなる。
1つの記憶には、それに繋がる別の記憶が前後に存在している。長く連なり、ストーリーになると、思い出に変わっていく。それは自分だけのものに限らず、誰かのものにもなっていく。続く繋がりが、いつかもう一度、自分の元へ戻るだろうか。
考えに耽っている内に、家に辿り着いた。時に歩き、時に車で走ったこの道が、香りという道標によって鮮明になっていく。それを胸いっぱい吸い込むと、頬を叩き、温かな灯が漏れる玄関に向かった。
※英語部分は、後の歌うシーンで纏めて意味をお伝えします。
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サスペンスダークファンタジー
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