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「君は誰だ!? あいつは襲撃犯だぞ、何のつもりだ!?」
警官の発言に耳を痛めながら、アクセルは威嚇で黙らせると、奪い取った銃を投げ捨てた。振り返ろうとする警官にじっと見られる訳にはいかないと、その髪を掴んで首を固定した。
「帰れ!」
言いながら、更に背中から突き飛ばす。だが警官は、解放されると同時に、無線で応援を呼び始めた。
それを聞きつけるや否や、アクセルは無線を毟り取ると、地面に叩きつけ、踏み潰した。そして、横転する警官の顔に土を蹴り、視界を奪った。
その場が静まるのも束の間、銃声がした。連続的な射撃音に、獣の悲鳴が散る様だった。
アクセルは堪らずステファンを叫び、そこへ駆けつけた時には、彼は既に横たわっていた。レンジャーはアクセルを捉えると、迷わず予備のピストルを向けた。その眼はまるで、害獣駆除を目的とする時と何ら変わらなかった。
「動くな! 大人しく言う事を聞け!」
レンジャーに向けられる銃口に、アクセルは息を荒げずにはいられなかった。
「てめぇっ……その人はっ……その人は、人だぞっ!」
アクセルは言いながら、怒りの唸りを絡めた。レンジャーは、彼の鋭い眼光に遮られながらも、引き金を引いた。
だが、アクセルの灰色の視界には、弾はスローモーションで迫りくる。彼はそのまま、飛ぶ蟲を躱す様に容易に身を傾けると、続けて発砲しようとするレンジャーに追いついた。
次の発砲までに銃を捥ぎ取ったアクセルは、両手を上げるレンジャーを見て、やっと我に返った。しかし、一切の恐怖はなく、怒りと憎しみがグリップを握る手を強めていく。
「止めろ……君に扱えるものじゃない……」
レンジャーの静かな声かけなど、アクセルには何も響かなかった。ただ、その言葉が正しい事は、手の震えが物語っていた。
「後ろ向け。早く」
アクセルはフードを被りながら、唸る様に告げる。レンジャーは大人しく従うと、ゆっくりと森の外れに移動する。その先で、警官が視界を取り戻せないまま、痛みに声を絞り出した。
「確保するっ……その身体っ……一体っ――」
アクセルは答えず、銀の眼を見開いた。2人は異様な人物に身を縮める。
森の奥では、茂みが騒ぐ音がした。アクセルは背中越しにコヨーテ達の気配を察し、彼等がステファンを運ぼうとしているのを匂いで認識した。
レンジャーが警官を支えて立ち上がると、これ以上抵抗はしないと示し、アクセルの答えを待った。レンジャーは、彼の姿を何としてでも焼き付けようとしていた。
アクセルは何も応えず、ピストルを圧し折ると2人に投げつけた。腕力に負けたそれは、地面に突き刺さったまま微動だにしない。
そして立ち去ろうとする彼に、レンジャーは青褪める。容疑者の元へ去ろうとする少年だけでも救いたく、声で引き留めようとした。ところがそれは、威嚇の声に搔き消されてしまった。まるで、既に読まれていた様だった。
肩越しに僅かに振り返る彼の、銀髪の間から覗く眩い眼に、2人は立ち竦んでしまった。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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