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*完結* COYOTE   作者: terra.
First Quarter
128/184

1



上弦の月を示す本章は、引き続き、エネルギーが徐々に高まっていく事を意味します。物事がポジティブに進められるという意味も含まれておりますが、ここから描かれる、アクセルにとってのポジティブとは何なのでしょう。






 草木には昨夜の雨粒が残っていた。木々の合間から陽が射していても、冷たすぎる風が土をぬかるませたままにしていた。




 自然公園まで来たアクセルは、移動する遠吠えに誘われる様に、奥の森へ駆けていく。

 聴覚と嗅覚が研ぎ澄まされ、植物の匂いや動物達の声が、頭の中に満ちていく。遠くからの伝言が、騒ぎの要因を徐々に(かたど)っていった。



『おかしな臭いを辿ってる』



 聞きつけた1つの遠吠えに、予想が当たったと見たアクセルは、足を止めると、近辺を慌ただしく見回す。他の声を認識できても、肝心なおしゃべりがどこにもおらず、ステファンを追えないでいた。




 息を整える内に我に返っていく。本当なら自分の事で精一杯の筈だというのに、気付けばこんなところに来ていた。相手は人の形をしているだけの恐ろしい存在だというのに、すっかり自分の事の様に捉えていた。




 家族やメンバーよりも優先してしまう。ステファンが妻に会えるならば、まずはそれでいい。しかし、そのやり方を探るために彼ともう一度会いたかった。ところが、どの動物も朝から彼の姿を見ていない。




 狩られるという遠吠えを聞いてから、アクセルは胸騒ぎがしたままだった。1人で見つけるには力が要る。そのつもりで、隈なく周囲を見回していると



『すっかりお仲間気分か、坊主』



 アクセルは、頭上を仰いだ。銀の眼光を灯すコヨーテは、木々の影から(おもむろ)に歯を見せた。



「ステファンの場所を言え」



『狩られるところでも見物してぇのか。そちらにはテレビってのか、スマホがあんだろう。それとも何か? 将来が不安で、ライブで見ておきてぇってところか』



「ああそうだ、随分な訳ありだからな! 銃を向けられて終わりなんて、たまったもんじゃねぇ! どこにいる!」



 コヨーテは、光の靄を立てながら着地すると、アクセルを嗅ぎ回る。そして目を大きく見開くと、舌を出して息を荒げた。



『とっととそいつをよこせ!』



 コヨーテは嗅ぎつけた鞄に喰らいつこうとすると、アクセルはすぐさま背後にそれを隠し、同じ威嚇の目を向けた。



「連れてけ。それが条件だ」



 コヨーテは苛立ちに鼻を鳴らすと、低く唸りながら首を上げた。すると、気乗りしない感情を足に滲ませながら先を進み、振り向いた。



『1つ臭いに酔やぁ、そいつに引っ張られてラリっちまう。それもまたアホな出来だ。人間の特性ってのは抜けきらんようだな』



 嘲笑しながら罵るコヨーテに、アクセルは込み上げる怒りに身体が震える。喰いしばる歯は今にも、その悪魔の様な獣に喰らいつきそうになっていた。

 それもまた面白がるコヨーテは、アクセルに目を細めると、次第に距離を取っていく。アクセルは怒りをどうにか抑えながら、その後に続いた。身体の熱は、既に全身を巡り始めていた。






 コヨーテの足が速まるにつれ、その速度に合わせていく。だが、間の障害物を颯爽と躱し、越えるなどといった技は、並大抵ではない。



「おい、無茶だ! こっちの都合、分かってるくせに!」



『お前が、な』



 コヨーテは先の岩に着くと、アクセルを睨む。



『遅い。その有様じゃあ、あいつが殺られる瞬間が見れんぞ』



「黙れ! そうならねぇために行くんだよ!」



 怒鳴り声に絡む獣の威嚇は、コヨーテの被毛を逆立て、波打つ銀の輝きを増光させた。コヨーテは岩から飛び降りると、興奮に身を震わせる。



『あいつが死ぬか、生きるか。そいつぁアックス、てめぇ次第だ』



 言い終わりが先か――コヨーテは光の尾を引いて駆け出した。

 アクセルは、光に目が眩んだ拍子に獣の声が漏れる。そして、そこに1つの明確な想いが宿った。その強い想いは怒りの波に乗り、身体の末端にまで迸ると、体毛を銀に染め上げた。両眼が鋭利に光り放つと、視界が灰色に一変した次の瞬間、遠ざかるコヨーテの脇に寸秒で追いついた。



『勘違いするな。俺は、そいつが欲しいだけだ』



 コヨーテはアクセルを導きながら、その鞄に視線を尖らせると、木の枝を悠々と飛び移っていく。

 アクセルは、コヨーテの声に連れられるまま、踏みしめるのも躱すのも億劫だった無防備な道を、風の如く擦り抜けていく。カードを切る様に迫る木々など、霧を抜ける感覚だ。気付けば枝を掴み、軽々身を運び、木々の上を渡りながら駆けていた。




 コヨーテを追い越し、追い越されてを繰り返す内に、早くも遠くに隣街の灯が見え始めた。



『10分南下した先に硝煙の臭いがする。血の臭いがないとなりゃあ、どちらも躱した』



 コヨーテは行き先に眼を光らせたまま、更に脚を速めた。アクセルは急かされる中、まだ遠くにいると分かりながらも、ステファンを探してしまう。ホリー以外の誰かと接触させる訳にはいかない。容疑者とされている今、出方次第では――想像した途端、アクセルは堪らず、悲鳴交じりの吠え声を上げた。









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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは♪ 毎日お忙しい中、投稿お疲れ様です☆ 新章ですね! ここでアクセルがポジティブになれる物とは?とありましたが、個人的には音楽や友人の、家族の支えの言葉かなあとも思いましたが、アクセルがコヨ…
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