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「I won't forget the time by that spot, with you……Tell me your stories again, like usual……」
歌詞が終わると同時に、音が萎んでいく。知らぬ間に口ずさんでは、目が宙を泳いだ。フレーズに含まれていた“that spot”という部分が何を指すのか、探してしまう。
落ち着けと言い聞かせながら、レイラとメンバーと映る写真や、歌詞そのもの、その字体を何度も見て、情報を集めた。
これらの思い出を、自分も絶対に掴み取れるようにしたかった。彼女が必ず思い出させてやると言ったからには。
集中しすぎて凝り固まった身体を伸ばそうと、ベッドに移った。そして窓にそっと触れた時、その先から甘い香りが薄っすらと漂ってくるのを感じた。
窓を開け、鼻から顔を突き出してみるのだが、そこに人気はなく、家の中は暗かった。でも確かに、残っていたのはレイラの匂いだった。
異常な確かめ方に、どうしようもない嫌気が込み上げた。鼓動が心臓を打ち破ろうと激しく伸縮し、痛みが広がっていく。
「Just want you to know, you are the best……You’re so beautiful……」
喉から絞り出したそのフレーズの前には、“世界が終わるかもしれないのに”という言葉があった。後悔する前に伝えるべきだと、ずっと前から分かっていた。なのに未だできておらず、窓枠に項垂れた。
遅かった。いや、まだ時間はある。そんな葛藤が続く最中、あの不快な熱が込み上げてきた。そして、聴覚が鮮明になっていくと――遠吠えが聞こえた。
『あいつが狩られる』
アクセルは、再び上半身を外に突き出すと、森林の方に耳を欹てた。今朝の騒ぎがまだ続いている事に、眉を寄せる。コヨーテの同じ言葉が、森中で共鳴している様だった。
そこに意識を集中させると、気配の少なさに違和感を覚えた。近辺に、ステファンがいない。
それを引き金に、昨夜の出来事が瞬く間に蘇った。彼が妻を求めて移動したのではないかと察した途端、アクセルはデスクの手帳と鞄を掻っ攫い、部屋を飛び出した。
階段を乱暴に駆け下りる息子に、母は怪訝な顔をする。そして、何処へ行くつもりかと、声だけで引き止めようとした、
しかしアクセルは、吸い寄せられる様にキッチンのストックに向かうと、新しいコーンフレークの箱を鞄に突っ込んだ。母はそれに口をあんぐりさせ、キッチンカウンターを叩いた。
「あんた何考えてるの? それだけは、守ってあげられる保証はない」
「ソニアには2倍にして返す! 言っておいてくれ、お前の好物がブレーキになるって!」
勝手に妹のものを触ると何が起きるのか。そんな事は百も承知だが、それは何と比べても可愛いものだった。アクセルは、呼び止める母に応じないまま、家を飛び出した。
英詞はバラードの歌詞につき、本ページではアクセルが口ずさんでるのみとします。
後のシーンで和訳を添えてお送りします。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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