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アクセルは部屋に入るなり鞄を投げ、デスクに立てているノートを出した。ところが、A4もB5もルーズリーフも結局サイズが大きく、慌てふためく手が止まる。
常に持ち運べるようにするにはどうすればいいかと、クローゼットを漁った。箱の中には、幾つものライブグッズや古い音楽雑誌ばかりで、また探す手が止まってしまう。そしてなんとなく、吊るしている服を寄せると、別の箱を見つけた。そこには、使わなくなった部屋の雑貨品がまとめてあった。
いつ整頓したのかは分からないが、先程開けた箱の中のものよりも、ずっと目にしなくなったものが詰まっていた。中には使い道が分からなくなったものもある。それを引っ掻き回している内に、黒革のバインダー手帳に目が留まった。
スナップがついたそれを開くと、真新しい状態のまま、カードだけが入っていた。飾り気のないそれは父からのもので、誕生日を祝うメッセージが一言だけ記されていた。日付を見ると、中学になったばかりの頃で、手にするには早かったものだ。当時は予定を書き留めておく習慣など、もっとなかった。
「ナイス、父さん……」
デスクにつくと、アクセルは早くもペンを走らせていく。十分な空きがある手帳だが、補充するためのリフィルを大量に買っておく必要があり、後で家族にも頼んでおく事にした。
バンドの事やメンバーの事、レイラの事、自分自身に起きた事を書き連ねていく。そのまま家族の内容になると、まるで魔法にかかったかの様に手が走る。今の行いがどこか馬鹿らしく思えた。忘れる心配などないのではないか。そう思えてしまうほど、記憶が鮮明に蘇ってきた。
壁に飾っている数枚の写真を見ては、皆の顔を思い出せるようにと、幾つか外して挟んでおいた。そして、肝心なのは曲だと、散らかしたままのノートから、歌詞ばかりを纏めた1冊を取り出した。
実際に曲になったものには、どのディスクの何曲目か、ウォークマンの何曲目かも記録している。元からある自分の癖に、こんなに助けられる日が来るとは思いもしなかった。
今は、土曜日のライブに徹底的に備えねばならないと、曲目リストをウォークマンの中に作っていく。そして、該当曲の歌詞をノートから切り離し、手帳に挟んだ。
イヤホンからアコースティックギターの音が流れると、ペンが止まる。まだ丁寧な録音ではないそれは、先週末、ブルースがスタジオでスマートフォンに吹き込ませたものだった。合間では、微かにレイデンとブルースの声が重なるが、殆どは自分の声で仕上がっている。
穏やかであっても、感情的に象られているその曲は、修正に苦労したものだという事もまた、思い出した。
そして、歌詞に含まれる9月の満月を意味するワードに、レイラの声が聞こえた様な気がした。
※ノートを取るのに授業によるのも一般的のようです。今はデジタル化が進んでますから、タブレット端末などで授業内容を記録する事も。基本的に紙のものを使うようですが、ノートやルーズリーフ/バインダーを使い分けたりもするようです。
因みに私事ですが、1年だけ海外の学校に通った時は、もっぱらバインダー/ルーズリーフでした。
※リフィル=黒革のバインダー手帳に継ぎ足していくメモ帳みたいなものです。小さいルーズリーフの様なものですね。本作のプロローグでアクセルが触れていたものになります。この先、よく注目してみましょう。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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