表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
Waxing Crescent
124/184

22




 ブルースは、カウンターで2杯目の水を一気に飲み干した。それでもまだ、どこか火が点いた様になっていた。




 4人でいるバンドが恋しかった。自分達から友達を遠ざけるものが何かを考えるにつれ、不安が膨らんでいく。変わり始めている友達は、以前の様に心地よくいられる頃には戻れないのか。共に同じ未来に進んで行く事は、できなくなるのだろうか。




 親の次に最もギターを褒め、虜になってくれた友達と、どこまでも突き進みたい。時を重ねる毎に想いが深いものになっていった彼と、後の2人と共に、新しいウェーブを立てたい。そして、世間を脅かすものをサウンドで吞み込んでやる。あわよくば、爪や牙を光らせてしまうもの達をも巻き込み、楽しませる事ができればいいのに。と、夢ばかりと睨み合ってきた。




 店番をするマスターの奥さんが、緩やかにカウンターに出てくると、浮かない顔をするブルースを覗き込む。



「いつもツナみたいなあんたが、今日はサーモンかい」



「“……何ゆーてんねん”」



 奥さんは、ブルースの理解不能な発言に、表情1つ変えず続ける。



「何か生もうとして、ここに逆流してきてるんでしょ? いつもなら驚異の泳ぎばっかなのに、珍しいもんね」



「“いや、分かりにくいわ!” ママ、俺は今、自分の空気の入れ替えをしてんだ……アックスの調子上げるのにてこずってる……」



「なら、アトランティックサーモンってところね。友達のためにそんな顔になって、喉を干上がらせてまで打ち込んで。友情のクオリティが高い。私みたいに脂がのってるわ」



 調子を狂わされたブルースは、不意に手元に出されたゴールドの炭酸飲料に、目を(しばた)く。



「新商品サービスしたげるから、あんたはブルーフィンツナらしく、熱い愛情でブチかましちゃいなさい。悩むなんて似合わないわ」



 自分達のこれまでを、マスターと同じくらい知ってくれている彼女は、歯を光らせる。まるで、結果がどうなるかはお見通しだと言いた気だ。




 ここに来れば、また別の家族がいる様に感じられる。ブルースは、何をアドバイスされた訳でもないが、可笑しな事を言われて背中を擽られた事が、少し嬉しかった。




 奥さんの言う通りだった。ジェイソンやアクセルと違い、賢い考え方ができない。レイデンの様に、そんなに勘も鋭くない。自分はいつだって、突発的に思った事を吐き出してしまう。今も、独り飛び出して来た訳だが、ここでこうしているよりも、きっと別の方法がある。それこそ、驚異的に動きを見せる――速やかに行動に移すというやり方が。




 ブルースは礼を言うと、仄かなジンジャーの香りがする新商品を、一気に流し込んだ。その途端、激しく咽せては、悲鳴を上げた。喉に電気が流れる感覚は、唐辛子を擦り込んだというのに近い。ブルースは涙目のまま、尻尾を巻いてスタジオへ逃げた。



「……可哀そうに。奥さん、一体何したの?」



 端に腰掛けていた客が、苦笑しながら訊ねる。



「強炭酸のスパイシーレモンジンジャー。唐辛子フレーバーを少し入れただけなのに、あんなにイっちゃうとはね」








※ツナ=マグロ

※アトランティックサーモン=大西洋鮭

※ブルーフィンツナ=クロマグロ


※スパイシーレモンジンジャーは、レモンの香りと、シナモンや胡椒などといったスパイスに、ジンジャフレーバーをブレンドさせた炭酸飲料です。ジンジャーシロップを作り、それを水や炭酸で割る事で、ジンジャーエールなどが楽しめます。特に大人は、辛味欲しさにシロップに唐辛子を混ぜる事も。

今はあるのかどうか……アサヒ飲料のウィルキンソン炭酸であるみたいです。唐辛子などは入ってません。



-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつもお忙しい中、投稿お疲れ様です☆ マスターの奥さん、とてもユニークで温かい人ですね♪ ブルースは自分に足りないものも感じたり、まだ熱が冷めていない様子でしたが、マスターの奥さんのお陰…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ