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ジェイソンは、2人の空気を見て何となく想像がついた。
「……どんな手を打とうが、アックスのためである事に変わりはない」
何をどう進めるべきか。彼等を暫く眺めては、自分自身にも問いかけるつもりで声にした。
「俺とレイデンからすれば、こうしていられるのは、ブルース、お前とあいつが誘ってきたからだ。……うぜぇ餓鬼だって思った。偉そうに、人の事情に踏み込んできやがってって……」
1つの事にただ打ち込む。それが単純であり、誰とも関与せず、目的のために仕事をやっていた。
だが今は違うと、ジェイソンは静かに呟く。そして、未だいつかの眼差しを浮かべ、どこか一点を見つめるレイデンを見ては、続けた。
「俺達には無かった……必要な勢いだったんだよ……だから返さねぇと駄目だ。お前等がくれた時を上回る勢いで、あいつが苦しんでる事に向き合わねぇといけねぇんだよ」
そのためなら、バチも手放す。ジェイソンは最後にそう言い張ると、それを握る手の震えを、ポケットに隠した。それでもまだ、友人としてのベターな選択が見つけられずにいた。
同じ空気を吸って共に戦いたい。だが、アクセルと警察に行くという選択は、自分だけに影響する事ではない。それもまた、悩ましかった。
「……ライブが終わってから、腹を割って話す。今はそれでいいだろ」
レイデンがやっと口を開いた時、ソファで俯いていたブルースは立ち上がると、頭を冷やしてくると言って、スタジオから出て行った。
ジェイソンはそれを見届けると、レイデンに目を尖らせた。
「進んで盾になるなって言ったろ」
学校での出来事に話題を巻き戻され、レイデンは大きく溜め息を吐く。
「別に何もなってねぇ、水かけたら向こうが引っ込んだ」
レイデンはすぐさま話を閉じると、サングラスを咥え、髪をハーフアップにすると、重々しくベースを取り出した。
適当に弦を弾くのだが、音に一切覇気がなかった。昨夜、アクセルが抜けてから、集中できないでいる。気合に水を差してくる負の感情が邪魔で、この場の演奏すらパッとしない。
「こいつもまた、初めてだ……あの野郎、俺の初モンを悉く奪うのな……」
消滅したバンド――アバドンに毒された過去は一生消えない。リーダーの奴隷になっていた間は、ただ高額の報酬を得るためだけに、音を出していた。メンバーのために音を出すなど、考えられなかった。毎度そこに顔を出せるよう、自分を保つためだけの演奏。それにこそ、覇気などなかった。今の感覚は、その時のものに似ていた。
「止めろ、ジェイソン……んな簡単に辞められたら、俺は今度こそ放浪確定だ……」
ジェイソンは、視線をバチに落していたところ、再びレイデンを睨んだ。
「勘違いすんな。言ったろう、どの選択もアックスのためになる。フラフラするなら繫ぐだけだ」
「ああそうかよ……なら早ぇ事、ギラギラで太くて頑丈な首輪でも探しとくか……」
レイデンは、ビリビリとした音割れを含むメロディを奏でると、呟く様に、ステージでのカバー曲を口ずさんだ。
日頃の口調を忘れさせる声は、いつもならばもっと澄んでいる。その時の感情が乗ってしまうあまり、今は寂しさで湿っている。
あと少しだけ速さが必要な曲だが、この場の空気や心境が、そのまま反映されている。指先でそっと埃を拭う様な緩いスピードは、辺りに重く響いた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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