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そこへ、ジェイソンが口を開いた。
「アックス、昨夜は結局、家にいたのか」
それは自然な問いかけで、責める様な口調ではなかった。しかしアクセルは、そんな彼すら見られず、また一歩引き下がってしまう。
「そうなんだろう? なら別に、俺はそれで良かったと思う」
もし、検査に行っていたとしたら。その先もまた、メンバーは想像していた。実際は、今、目の前にアクセルがいる事にほっとしている。ジェイソンはそれを隠しきれず、慌てて声をかけていた。そしてやっと、アクセルが横目を向けてくれた時、その肩を取った。
「聞け。俺達が本当に目指すのは、土曜日じゃない。分かってる。お前も、あいつらも、機会は逃したくないだろう。でも、ステージなんかそこらにいくらでもある。今、お前にとって最優先でするべき事は何だ。それが、俺や後の皆にとっての最優先事項だ。違うか?」
アクセルは、自分が応えるよりも先に、車の2人やレイラが頷くのを、目だけで追っていく。誰も責める事をしない。その優しさが、胸の奥底で痛みに変わる。
自分だけが、どうしても混乱している。この場にいない方がいいという、独り、世界から外れてしまうという事が、既に始まっている様な気がしてならなかった。
「……俺に……音……送ってくれるか……」
皆は、アクセルの不思議な願いに、暫し時間を置いた。小さくなっていくボーカリスト――友人を支える。その務めが自分達にある事を噛み締めた時、ブルースから切り出した。
「昨夜、弄ったところがある。これからそこの調整すっから、できたらすぐ送ってやる」
「分ぁってるよ、お前ぇは歌いたいゴーストだ。でも止めとけ、今だとリアルゴースト過ぎてチビっちまう」
ブルースに被さる様に、レイデンがアクセルの肩に絡むと、いつもの調子で和ませようとした。
「その気になったら声を送ればいい。活動の仕方は、いくらでもある」
最後に添えられたジェイソンの言葉に、アクセルは漸く彼と向き合い、そっと頷いた。
そして、3人と明日に会う約束をすると、レイラと2人きりになった。また朝と同じ熱っぽさを感じると、むしゃくしゃする顔を背ける。
レイラは、彼がどうにか心境を整えようとしていると分かると、その困り果てた表情を見て考えた。今できる事は限られている。それを全力で務めようと、彼の手を取った。
「買い物をしなきゃいけないから、このまま街に残る……一緒にいたいけど、連れ回すのは悪いわ……」
アクセルは慌てて顔を上げると、朝から世話になった事に、繰り返し礼を言った。その間、レイラは、彼の表情の裏側に、もっと苦しいものがある様に思えた。どこか痛みを堪えている様な顔は、また俯き、隠れてしまう。それを見兼ね、彼の顔をこちらに向けた。
「私が、あなたの薬になる。私だけじゃない、メンバーもよ。貴方の苦しみが具体的に何なのかは、ゆっくり教えてくれればいい。でも皆、貴方を気にかけてる。それは知ってて欲しい。そして、貴方の傍から離れない事も」
アクセルは、耳鳴りがする中、彼女の声だけが真っ直ぐ鮮明に捉えられ、その瞳に吸い込まれていく。いつの間にか肩でしていた息は、穏やかになっていった。
「分かった……分かったけど、それ、どこかに書いてくれないか……」
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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