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何の騒ぎだと、ブルースが割り込んだのが先か――派手に水が撒かれ、悲鳴が上がった。
「溝のヌメりは粗方流せたぜ、マザー。悪いけど、モップがけは頼むよ」
バケツを丁寧に置いたレイデンは、清掃員の女性に愛想よく告げると、騒ぎの輪に颯爽と踏み込んでいく。周囲が後ずさる中、彼はアクセルに絡む大男に迫ると、上から下までじっくりと視線を這わせた。
「まだこびりついてんのか……ああ何だ、なら率直に言わねぇと分かんねぇぞ。ダーリン、本当はお前が好きでたまんねぇんだよ、って」
レイデンは気にせず、大男をちゃかす。
「ブタバコ出の両生類がっ……引っ込め」
相手は焦燥を抑えながら罵るも、レイデンは涼しい態度を変えない。
「おいおい、俺はお前から見たら師匠だぜ? 態度がオワってる。止めとけ、見てて痛ぇのなんのよ」
相手は怒りに引き攣った笑みを浮かべながら、飄々とするレイデンを睨む。その間、アクセルは、ブルースにその場から引き摺られた。
急に浴びせられた水は、アクセルにとって大きな救いだった。込み上げる感情が、危うく爆発しかけていた。
ブルースはアクセルの肩を掴んだまま、レイデンの出方を気にしていた。
そこへレイラも駆けつけると、視線を感じ、身を縮めた。小声での騒ぎが、身体を擽る様だった。
それを聞きつけたアクセルは、レイラをすぐさま引き寄せる。しかしレイラは、騒動の輪に近付いた事で、レイデンがいよいよ胸倉を掴まれるところを目の当たりにし、思わず彼の名を叫んだ。
それに振り向いた大男は、ずぶ濡れにされた分の怒りが増すまま、ライバルであるアクセル達に視線を流す。
「ほう……そうかよ……なら今日からてめぇ等の名前は、逆ハーレムだ!」
するとレイデンは、手だけで待ったをかける。
「勝手が過ぎるぜ、ウスノロ。こちらにも採用手順がある。まずは、てめぇが名付け親に相応しいかを試すところからだ。ショットの連発の後に、何人絶頂に連れてけるかを見せやがれ。喜べ、第一関門は俺だ。厳格な査定をしてやっから、安心してかかってこい」
いつもならば、コミカルにサングラスをフリップアップするレイデンも、込み上げるものを抑えているのが、微かな声の震えで分かる。
「イかれたアバドンはとっとと院に帰れ! 悪影響な奴に居場所はねぇ!」
「そらぁそうだろうねっ! さあ、どいたどいた! 掃除にならないでしょ! こちらは暇じゃないんだ、ゴミを増やさないでおくれ!」
清掃員が問答無用で割り込んだ。彼女からすると、子どもの小競り合いなど、どうでもよかった。乱暴な手捌きで、生徒達を払い除ける様に水掃きをしていく。
周囲は、同じ汚れとして扱われていく大男や、割り込む清掃員の動きが何とも言えず、笑い転げた。その様子に、レイデンの器から感情が漏れた。
「面白ぇか……残念だ……それが、お前等が明日に繋げてぇもんか……ああ止めとけ、未来の子どもが地獄を見るぜ」
レイデンは、溢れた怒りを尚も抑えながら言葉を切ると、すぐ側にいた、記事にしたくてうずうずしていた生徒の肩を引っ掴んだ。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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