表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
Waxing Crescent
116/184

14




 アクセルは、冴えない頭に計算が山積みになり、余計に疲れてしまった。数学は苦手で、1コマ目にならないように避けているほどだ。




 クラスが終わり、見るだけで億劫になる教科書をロッカーに仕舞うと、母へ連絡し忘れていた事を思い出し、慌ててメッセージ画面を開いた。レイラとカウンセリングに行く事までは伝えており、今は学校にいると、短い文を送信した。

 その時――ロッカーが激しく閉まった。アクセルは、不意に飛び込んだ大柄な手を見た後、視線を上にやる。そこには、いやらしい眼差しでこちらを見下ろしてくる生徒がいた。



「ようアクセルの坊や。すこぶる調子がヨかったのか? 女と遅れて通学とは、随分(えれ)ぇバンドになったんだな」



 その科学のクラスメートは、嫌な意味で有名だ。厄介な者に遅刻したところを見られた上に、絡まれ、アクセルは溜め息を吐く。



「いるかどうかも分からねぇ女は、ドんなもんよ?」



「お前には一生かかっても分からねぇもんだよ。どけよ、半端モンが」



 相手もまた、バンドを組んでいた。その絡み方は、アクセル達をひがんでいるのがみえみえだった。



「人の客取る奴の口はでけぇもんだな。どの女とヤるかの厳選に苦労して遅刻するとは、羨ましいぜ。だがある程度は絞った方がいいんじゃねぇのか? お相手はここにもいるぞ?」



 視界の下から引き上げられたのは、首根っこから掴まれた、あの野良猫だ。



『こいつをどうにかしろ、ご新規っ……千切れちまうっ……』



 アクセルは、その声を聞きつけた途端、脳内の何かが音を立てた。スイッチが切り替わる様なそれは、次第に、胸の奥から熱を湧き起こす。目は痙攣しはじめ、眼差しが変わっていく。



「……放せ。痛がってる」



 荒ぶる感情を必死に抑えながら、アクセルは告げた。ところがクラスメートは、それを笑い飛ばす。その声に層が増していくのを感じ、アクセルは、何事かと周囲を見た。そこには大量のレンズがあり、通りすがりの生徒達が、この状況を笑いながらネタにしていた。



「あ? 俺には、自分で歩くのが省けて、精々してるみてぇだが?」



『爪、爪っ……爪が食い込んでヤベェっ……』



 野良猫は、不器用に手足で抗う。そうする事で余計に痛みが走るのだと、苦しみ紛れにアクセルに訴える。



「放せって言ってるのが聞こえねぇのか。耳がイかれてんなら、尚の事バンドに向いてねぇな」



「トップ気取りも大概にしとけ。俺は、お前に触れられる女が気の毒だから、教えてやってんだ。可哀そうだろう? お前が相手にしたら、みんな狂犬病だぜ!」



 クラスメートは言いながら、野良猫を大きく振り払うと、痛みの悲鳴が上がった。野良猫が逃げた痕を見ると、掴まれていた力の強さがいかなるものかが、床に落ちた細い血痕でよく分かる。




 アクセルは眼振が起こり、視界が点滅しはじめた。クラスメートからの、例え難い不快な異臭に刺激され、歯が鳴ってしまう。



「虐待だぞっ……」



 身体の異変は意識できていた。ここで抑えられなければと、アクセルは拳を握り、最低限の発言に留めていく。



「はんっ! たかが動物。たかが野良猫だ。怪我の1つや2つ、し慣れてんだろ。いちいち可哀そうな面さらしてんじゃねぇ。な? お前が引っ掛ける相手は人間じゃなく、動物サマにしとけって話だ!」



 周りの生徒達の中からは、その辺にしておけと宥める声もする。しかし彼等の殆どは、再び生き物の声を認識するアクセルが興味深く、他にも何か連れて来いと煽る声もした。また、記者になったつもりの生徒が現れ、記事を書かせろなどと興奮して近付いてくる。学校のホームページで生徒の紹介枠に載せたいなどと言い、目を輝かせていた。これにもまた、笑いの渦が立ち込めていく。









-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつもお忙しい中、投稿お疲れ様です☆ ここに来て、嫌な生徒の登場ですね。 アクセルは動物の声が聞こえている分、尚更その嫌な生徒の暴挙に憤りを感じてたんですね。 血が出るほど虐めるなんて酷…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ