表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
Waxing Crescent
113/184

11




「どんな人にも、心の不安を抱く事はある。恥ずかしがる必要なんて、本当はない。でも皆、不安になるという事がどんな感覚なのかを知っていながら、やっぱり恥ずかしいと思ってしまう。だから軽い気持ちで、不安だよねって笑い合ったり、大した事ないよねって、誤魔化してしまう。だけどアクセル、貴方が今感じているものはもう、そうやって誤魔化せるものではなくなってしまった。身体の方からサインを出してくるものでしょう」



 カウンセラーは、アクセルの手元や、落ち着きなく前後する足元を見て、続ける。



「その日限りのものではない、もっと継続的なもの。何かを境に、笑って流せる領域を越えてしまった。それは、これまでの日常とはまるで違う、苦しいものだと思う」



 アクセルは小さく頷きながら、自分自身の生活と、カウンセラーの言葉を重ねていく。



「その苦しみや不安が、家族や友達といった身近な人、普段過ごす環境に影響を及ぼすのではないか。或いは、そうなったらどうしようかと怖くなる。だからそうならないように、最善を尽くそうと無理してしまう。その結果、身体が緊張状態に陥っていく」



 アクセルは話を聞きながら、時折、レイラの横顔を見る。同じ真剣な眼差しで、自分の事の様に耳を傾ける彼女を、自然と求めていた。



「抱いている不安の感覚を、他者に分かりやすく伝えるのは難しいものよ。けど、例えばこうして、私の様な専門家に打ち明ける事はいい。そしてもう1つ、彼女も、貴方にとっていい薬になってくれそうね」



 アクセルがレイラを横目に見る動作から、カウンセラーは優しく推奨した。



「心の散らかりを整理するやり方の1つに、文字に書き出す方法がある。貴方の場合は作詞をするから、近いものがあると思う。でも、その場合は決まった尺の中でやるわよね。想いを書き出すという方法は、それを気にしなくていい。ノートや紙、タイピングなんかで、ひたすら自分の胸の内を書き綴って、吐き出し、まずは発散をする。すると、考えている事を客観的に見る環境ができて、考え直したり、思い出したりする事にも繋がるわ」



 書き出すという言葉に、アクセルは目を見開いていく。私生活の中で閃いた歌詞を、後で使えるかもしれないと書き残しておく事と、何ら変わらない様に思えた。それが、先々で上手く働くのであればと、次第に可能性が広がっていく。




 緊張した時間を解そうと、カウンセラーは一度立ち上がり、窓を向いた。

 アクセルとレイラは、互いを見合う。自然と気持ちを寄せ合っているからこそ、似た様な心配事が生まれた。

 この先、彼についていられるかどうか。

 この先、彼女に揺さぶってもらえるかどうか。

 互いに足枷(あしかせ)になってしまわないかと、胸の中で渦巻いた。



「……ご存知の通り、私は昔、大きな過ちを犯した。未だに騒がれるのよ」



 背を向けたまま話し始めたカウンセラーに、2人はそっと振り向くと、静かに聞き入った。









-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは♪ いつもお忙しい中、投稿お疲れ様です☆ カウンセラーの仕事は優しさなくして務まるものではありませんね。 気持ちに寄り添うと言うのは、生きていく者同士、必要不可欠ですし、またアクセルのように…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ