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アクセルは目を泳がせると、レイラの提案を静かに断った。症状の原因も、その解決策や向き合う術も、自分でしか見つけられない。それを言葉にはせず、ただ表情に出していく。
「躊躇っちゃうんでしょ。分かるわ、私も同じだったから。でも、専門家に聞いてもらう事は楽になる。例えこれが最後になろうとも、試してほしい」
レイラはアクセルの手を握り、真っ直ぐ見つめ、返事を待った。彼が漸くSOSを声にしてもらえた以上、全力で応えたかった。枯れかける植物の様に生気が萎み、覇気を失っている。1日でも早く、揺さぶればすぐに歌い出しそうな、元の素敵な姿を見たかった。
「分かったけど、君は学校へ行け。遅刻してるじゃないか。その先生の連絡先は?」
「バカ! 勉強なんてできる訳ない! ほら準備して!」
湿った植物が朝陽に光りながら、飛び出した2人を迎えた。アクセルは、それに、暗い心を少しばかり照らされた様な気がした。身体の怠さや頭痛はまだするものの、レイラが触れられる距離にいるだけで、かなり気分が違った。
しかし、カウンセリングを受ける事にはまだ気乗りしなかった。クリニックに通うクラスメートはいるが、自分もその選択をするなど、思ってもいなかった。
バスに揺られながら、胸の内を話せるのだろうかと、アクセルは不安が膨れ上がる。真面目に話したところで、受け入れてもらえる気がしなかった。或いは、警察に連絡をされないだろうかと、再び恐怖が生まれる。やはり止めるべきではないかと、迷いばかりが巡っていた。
そして、ふと、遠くの景色を眺めた。いつの間にか、コヨーテの声が聞こえなくなっていた。それにもまた、胸騒ぎがする。
レイラは、アクセルの不安を紛らわそうと、座ってからも話し続けていた。曲作りの事や、先週少しだけ聴いたムードのある曲、クラスでの可笑しな話。また、質問も投げかけていた。ところが、会話はどれも長続きしなかった。特に音楽やバンドの事、ほとんど会わないジェイソンはどうしているのか、話が弾むだろうと期待していたのに。
景色を眺めるアクセルの顔は、朝一番に見た時とあまり変わっていない。バスを飛び出していくのではないかと、レイラは嫌な想像をしてしまう。家にいた時とは違い、ほとんどこちらを見てはもらえず、打つ手を出し切った空っぽの手を見下ろした。
そこへ、ふと、冷えた両手を開いた。意識的ではなく、自然なものであり、何かを求めているのだと気付いた途端、目を見開いた。そして、アクセルの手を取った。
顔を覗こうとするも、緊張のあまり、目を閉じてしまう。不器用さが震えに変わるところ、レイラはそっと、アクセルの肩に頭を預けた。
どんな顔をしているのかが気になるが、自分は今、きっと可笑しな顔をしている。今は、眠い振りでもして誤魔化しておく。彼には散々、誤魔化されてきたのだから。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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