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ところがレイラは、逃げる様にアクセルの胸を押すと、焦りを隠そうと余所見した。
「違うの、その……ごめんなさい……」
「いや、いい。ああ、その……そう! さっきはほら、あれだ! 何かが窓を這ったんだ! それだけ。そう、それだけ! あー……お茶でも飲む?」
相変わらずなものだと、レイラは呆れ、今度はアクセルごと家に押し入る。そして、彼の両腕を掴んだ。
「学校は? 具合悪いの?」
アクセルは、つい、目を逸らしてしまう。懸命に言い訳を考えるのだが、そんなものはもう、レイラにはお見通しだった。
「貴方は、もっと山の方を見てた。下も上も一切気にしてなかった。言ってよアックス、何を考えてたの!?」
レイラは彼を揺さぶった。誤魔化される事に気が立ってしまう。今は、そんな優しさなど嬉しくない。目が熱くなり、涙の予兆を感じると、必死に息を呑んで抑えた。
アクセルは、レイラの震える両腕に触れる。
「……怖ぇんだよ……恥ずかしい話だろ……」
言いながら、自分に呆れて笑ってしまう。視線は、何がある訳でもない宙を彷徨った。
「恐怖を感じる事は誰にだってあるわ。そんな風に思わないで。特に貴方は、酷い目に遭ったもの……怖いなんて当たり前」
だから何でも話してもらえないかと、レイラはどうしても必死になってしまう。それでも、アクセルの表情は硬いままだった。
信用していないのではないのだと、アクセルは、レイラの悲し気な表情を見た。彼女に触れたいあまり、力をこめても、コートと、その下のセーターが邪魔をする。だが、その感触もまた手放したくはなく、更に力が入ってしまう。
その時、重大な事を思い出し、慌てて両手を解いた。アクセルは、再び大きな不安と寂寥が押し寄せると、崩れる様に顔を突っ伏す。
レイラは、アクセルの頬に触れようとするも、彼は怯える様に1歩引いてしまった。そこへ
「何も起こらないかもしれない……なのに、どんどん、今にも何か起きてしまうんじゃないかって思う……どうしても、思ってしまう……」
アクセルは言いながら顔を覆うと、髪を掻き毟った。
「ああもう……俺は君とこんな話がしたいんじゃない……」
レイラは、そんなアクセルを見るのは初めてだった。独り、何かに恐怖しながら生きていたのかと思うと、息が震える。
それでもアクセルは、自分を揶揄う様に、小さく笑った。心情が乱れていようと、その場の空気を気にしたり、人の気持ちを少しでも晴らそうとする。そんな彼に、レイラは1滴零してしまうと、ふと目を見開いた。
「……ねぇ、ちょっと出かけない? 提案がるの」
アクセルは首を傾げる。レイラは涙を拭い、真剣な眼差しに、けれどもどこか楽し気に、切り出した。
「貴方の抱える症状に心当たりがある。ほら、うちは父さんがあんなだから、医療系の人とは関わりがあるの。カウンセリングを受けてみない? いい先生を知ってて、家族でお世話になった事がある。先生は個人で活動をしてて、あちこち回るんだけど、今この街にいる」
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
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