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リビングにいたキャシーが騒ぎを聞きつけると、弟に駆け寄る。
「もう……あんたしっかり温めないからでしょ。熱あるじゃない」
「ああ止めろ! 平気だ、触るな!」
アクセルは、つい、姉の手を激しく払い退けてしまい、前の2人は怯んでしまう。
アクセルは、息が震える中、どうにか自分を繕った。
「ごめん……なぁ、薬あるか……今日は行かない……」
ソニアは解熱剤を持ってくると言い、慌てて部屋を出て行った。
アクセルは、姉と2人きりになると、ますます鼓動が高ぶった。噛みつかれるのではないかと俯いては、心で構えてしまう。顔を上げられなかった。もし今、自分の目ではなくなっているとすれば。それを考えるだけで、背中に寒気が走った。
「あんた何か考えてるよね、昨夜から。母さんも気にしてたわよ」
ところが姉は、叱ることはしなかった。母は昨夜、息子と昔に戻ったと、嬉しそうに話していたと言う。その一方で、最低限の事しか聞かせてもらえなかったとも言い、寂し気だった、とも。
「……言いなさいよ。隠すなんてできっこないんだから、あんたは」
「分かってる、だから困んだよ……」
アクセルは、それ以上踏み込まないでもらいたかった。この心境で姉を突き放そうものなら、次に何が起こるのか。そんな事は、想像するまでもない。
アクセルは目を擦り、姉を僅かに見て、乾いた笑みを浮かべた。
「また話す……だから頼むよ……分かってても、今は……」
今はどうか、自分の中に入って来ないで欲しい。そう言い切るよりも先に顔を覆ってしまい、首を落とした。
キャシーは、何かに怯える弟に、内心戸惑っていた。それを解消しようと、つい、無理に会話をしようとしてしまった。
もう一度、その、小さくなる肩に触れる。泣きそうなのを堪えているのか、弟から震えを感じた。
こんな性格の自分だから、いつからか、弟を困らせたのだろうか。弟の発言はどうしても、無理矢理に絞り出す気遣いに思えてならず、胸を針で刺される思いだった。
「……そう……まぁそうね、私も悪かったわ」
溜め息混じりに返すと、同じ様に首が折れてしまう。喧嘩ばかりしていた弟との関係は良くなっていると思っていた。しかしそれは、まだ序章に過ぎなかった。互いに変わったとはいえ、まだまだ強い態度で出てしまう。仕事の様に上手く向き合えればよいものを、弟になると、どうしても関わり方が下手になる。そのもどかしさを、膝の手が自ずと、強く握った。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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