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上弦の月は、満月に向かっていく段階にあり、エネルギーが満ちていくとされています。
目標に向かっていくともいわれており、アクセルの新たな変化が見える章に入ります。
酷い倦怠感に、風邪を疑った時だった。銀の姿になっているのではないかと、アクセルは飛び起きた。スマートフォンのカメラを起動し、顔を見ると、そこに映る自分に肩をなでおろす。だが、体内は違うのかもしれないと、やはり俯いてしまう。
昨夜の母との時間の後、食事をした。留守にしていた妹がすぐに帰宅し、会話をした。
もし昨日の説明をしてみろと問われれば、その様に掻い摘んで話す事しかできない。何時の事で、誰とどんな話をしたのか。脳内を探る内に、額の手の震えが止まらなくなる。
片や、自然公園での出来事や、生々しい身体の動きは、腰痛を通じて鮮明に思い出せた。身体の深部から熱を感じると、険しくなる顔を覆っては、歯を食いしばってしまう。
泣くものか。自分はもっと、いい違いを出してみせる。明るみでも、暗闇でも、黄昏の場でも。そんな1つの強い意思が、沸騰しようとする心に蓋をし、症状を鎮めてくれた。
それでもまだ、震えは止まなかった。どうしても、見せつけられる現実に血の気が引いてしまう。頭で木霊するコヨーテの笑い声が、無慈悲な出来事に絡みながら巡っていた。
頭が割れそうなところ、立ち上がると、視界の所々に点滅が生じた。一時、暗闇に閉ざされ、立ち眩みに苛立ってしまう。こんな朝が続くと思うと、億劫になった。
薄く目を開いていくにつれ、症状が引いていった。自分の部屋の匂いや物に、身体は癒されていくのだが、それも僅かだった。これらを失わないための手段を考えている内に、瞬きを忘れてしまう。
心で次第に紡がれる意思は、太い糸になっていく。どんなに強く引っ張っても、捻っても、擦れても、切れる事はない。確実に頑丈にする事で、断たれない。そんな安心感を求め続けた。
だが、安定しない体調の中で、それが捗る筈もなかった。起きて早々にこんな事をする自分に嫌気がさし、両手に顔を埋める。最悪な精神状態に、喉の痛みまでもが重なった瞬間――枕に顔を埋め、喉が裂けんばかりに、悔いと苛立ちを叫んだ。
潰してはならない、慎重に扱うよう心がけてきた臓器を、砕きたくなった。どれくらいの声量かは感覚で分かる。合間に混ざる獣の声に、焦燥は込み上げる一方だった。
その時、飛び込んだノックが、苦しみを半端に解放させた。アクセルは、肩で息をしながら大きくドアを振り返る。聞かれたかもしれないという不安で、呼吸が荒くなる。
「お兄ちゃん、ブルース来ちゃうよ。何も食べない気? お姉ちゃんに片付けられるよ」
妹の声に、アクセルは目を見開いた。そこから芋蔓の様にメンバーの顔が浮かぶと、何の連絡もしていなかった事に焦ってしまう。しかし、震えのあまり、スマートフォンが床を打った。
ドアを開けようにも、膝が床に吸いついて離れない。硬直する身体に抗おうとすればするほど、震えが増し、息は声にならなかった。
「……大丈夫? 入っていい?」
妹の声に肩が弾むと、全身を隈なく見回した。体毛や体型は変わっていないか、そこら中を叩いて確かめる。普通の声が出せるかと、咳払いと呼吸をするのだが、激しい咳に襲われ、言葉を交わすどころではなくなった。
「お兄ちゃん!?」
苦しそうな声を聞きつけたソニアは、床でぐったりする兄に飛びついた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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