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通学路いっぱいに陽が射している。2人は車に乗ると、サングラスをかけた。車内にロックサウンドが鳴り響くのは習慣だが、ブルースはすぐ音量を下げると、何があったのかとアクセルに問う。騒がしく登場したからといって、兄妹が真剣に向き合っていた空気は、しっかりと嗅ぎつけていた。
「朝飯ぃ? んなもん、“白飯、味噌汁、卵焼き、焼き魚”、締めは“緑茶”だ」
「碌でもねぇな」
「おい、日本の食文化と健康志向をナメんな。妹に言っとけ、美容意識を高めたいなら、俺んとこへシゴかれに来いって」
ブルースの母は、日本の関西地方の生まれだ。彼は、普段の朝食を流暢な日本語で教えてくれるものの、ほぼ理解できない。なので英訳してもらい、アクセルはやっと、その食事の質の良さが分かった。
15分ほど走ると、車やバス、自転車が学校の敷地内に折れていく。
2人は車を下りると、校舎へ急いだ。何百人もの生徒の蠢きの一部になり、通路から校内へ流れていく。
ここでは、軽音楽を含む幅広い音楽を中心に学ぶ事ができる。今日は、新学年になってからの音楽指導を目的に、1曲提出しなければならない大事な日だった。
廊下にはロッカーの壁が立ち並ぶ。授業の支度で生徒が密集するところ、ブルースは、エレキギターが通路の邪魔になるのも余所に、自分の持ち場に容赦なく突っ込んでいく。そして、視界に飛び込んだ光景に愕然とした。どんなに早く来ても、必ず隣のロッカーの持ち主とそのパートナーが1つになり、沸騰している。
「“本っ間、ええ加減にせぇ!” 人のロッカー、ベッドにすんな!」
と、吠え飛ばして押し退けたところで、だ。彼等の熱が冷め止まないのもまた、いつもの事だ。
1限目がボイストレーニングのアクセルは、身軽のままブルースと合流する。2限目に楽曲提出を控えているため、丁度よいタイムスケジュールだった。
「結局ドラムは録音したやつ?」
「なワケあっか! 昨夜に電話で念押した。10時に絶対ぇ来いって。遅くとも俺等のターンまでには来る。頼むぜアックス。また後でな」
基本的に常に火を棚引かせている様なブルースは、妻と呼んで放さないギターを背に、国語の授業に行ってしまった。
アクセルは彼を途中まで見送ると、教室に向かう。その時、ふと、ある心配事が過り、辺りを見回した。ごったがえす所でも大抵見つけられるあいつが、どこにもいない。立ち止まって目を凝らすも、5分しかない移動時間のリミットが迫る。遅刻にうるさい教師である事を思い出し、行き交う生徒の合間を縫って走った。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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