第78話 異質の兵隊
「うわっ、何だこりゃ!?」
「うわぁ。隊長の言ってたとおりにゃ」
「なっ、何ということだ……」
先程ベルが言っていた通り、教会を襲撃してきた連中は神の僕で間違いないようだ。
どこにでもいそうな人間が一瞬で異形に変わる様子に、それぞれが驚き、顔をしかめている。
その時。
倒れているうちの一体の顔から、仮面がカラン、と乾いた音を立てて外れ落ちた。
「……!」
全員が絶句する。
そこに人の顔はなかった。
額には『黒い板』が埋め込まれ、その下には『黒目の白目に赤い瞳』の目が一つ。
片側が潰れている、ということではなく真ん中に一個だけしか無いのだ。
鼻はなく、唇のない口からは、歯茎と歯が剥き出しになっている。
凹凸が無い、目と鼻と口のパーツを限界まで削ぎ落としたようなデザイン。
それは、人間の嫌悪感を呼び起こすことを目的としたとしか思えないような異様さだった。
「……この異形が、『神の僕』だというのか」
アズライトが、震える声で呟いた。
彼女は監査官としての義務感からか、あるいは信じられないものを確かめるためか、倒れている異形の一体へと歩み寄る。
「人に化ける能力がここまでとは……」
彼女が屈み込み、その顔を覗き込もうとした、その時。
「駄目だ! まだ近づいちゃー!」
背後から、ベルの鋭い警告が飛んだ。
「え?」
アズライトが振り返る。
その背後で、ギギギ、と不快な駆動音が響いた。
倒れていたはずの異形が、あり得ない角度で関節を曲げ、バネ仕掛けのように跳ね起きたのだ。
「コロスゥ……ハイジョ……」
起き上がったときの衝撃によるものか、その異形のしていたお面が外れ、床に落ちて乾いた音を立てる。
その顔は、先程の個体と全く同じ造形をしていた。
第5位階の神の僕は剥き出しの歯をガチガチと鳴らし、アズライトに襲いかかる。
「ひっ……!?」
アズライトは悲鳴を上げ、咄嗟に身を引こうとした――が、足元の瓦礫に足を引っ掛けてしまう。
彼女は受け身を取ることもできず、派手に転倒した。
ゴンッ!
頭を長椅子に打ちつけた鈍い音が教会内に響く。
アズライトはそのまま白目を剥いてぐったりとし、動かなくなった。
「アズライト!」
僕は叫び、地面を蹴った。
異形の腕が、無防備な彼女へと振り下ろされる――その直前、僕の剣が敵の胸を貫いた。
ズプッ。
これは生物を刺す感触じゃない。
そう、あの時の――王都の地下で戦った鉄人形の時と同じような、そんな手応えだった。
僕はそのまま剣を振り抜くようにして、敵をなぎ倒す。
「ギギッ……」
だが、胸部を貫かれたはずの異形は、何事もなかったかのように起き上がろうとしていた。
「ロイ! 他のも生きてる!」
ミアの声に周囲を見渡す。
アーチェの攻撃で散らばっていた他の4体も、気味の悪い声を上げながら起き始めている。
「何ィ!? 俺のバーニングフォームはもう解除しちまったぞ!?」
「にゃにゃ!? さっきのが無駄弾になったにゃ!」
倒したはずなのに起き上がる不気味な第5位階。
モーレッドは下準備に時間がかかり、アーチェの弾は有限。
打開策が見つかるまでは他のメンバーでなんとか凌ぐしか無い――
と、僕がそんなことを考えたタイミングで、後方から神父の緊迫した声が上がる。
「シェ、シェリー! 待ちなさい!」
振り返ると、奴らの一体が落とした斧を両手に握ったベルがいた。
彼女は、こちらに向かってふらふらと近づいてきている。
「戻りなさい! 何をする気ですか!」
制止する声は全く聞き入れられず、彼女はどんどんこちらに近づいてくる。
しまった。
すっかり忘れていたけど、彼女もまた、神の僕の一員じゃないか――!
「なーにボサッとしてんのー!」
ベルが斧を振り上げ、僕は思わず身構える。
だが、完全に油断していたせいで間に合いそうにない。
「こいつ殺すには」
ああ、僕の額はあの斧で真っ二つにかち割られるのか。
「こーすんのよーっ!」
ドガッ!
ベルの声とともに、何かが破壊された音がした。
……僕の、すぐ後ろで。
「ギ、ガガ、ハイ、ジョ……」
慌てて振り返ると、第5位階の額にあった黒い板が斧で真っ二つにかち割られていた。
ガシャンッ!!
そして、黒い板が砕け散る。
その瞬間。
「ギァァァァァ……」
異形の兵隊は悲鳴を上げ、空気を歪ませながら崩れ落ちていく。
そして、焦げ付いたような異臭を残して、その体ごと煙のように消滅してしまった。
後に残ったのは黒い板の残骸だけ。
「本体はあの板か!」
僕は叫んだ。
理屈は分からないが、やることは分かった。
「ミア! 額の板だ!」
「おう!」
ミアの『双燕の短剣』と僕のミスリルの剣が、額の黒い板を次々に両断していく。
「ギエエエ」
「グオオオオアアア」
教会内を埋め尽くす、異形たちの断末魔。
「よし、これで終わりだ!」
最後の1体が消え去ると、緊張感に包まれていた礼拝堂はようやく静寂を取り戻した。
「はぁ、はぁ……。なんとかなったか」
5体分の残骸を見渡し、僕は息をつく。
「こいつらは、一体……?」
エディミルはともかく、ミュズガルとも明らかに違う存在だった。
位階が何を指す言葉なのかははっきりしないけど、4位と5位でここまで変わるものなのか――
と、そんな事を考えていたら、背後から気だるげな声がした。
「へー。第5位階の連中、見るの初めてなんだー」
振り返ると、そこには女性がいた。灰褐色の肌をした、女性が。
白衣の下には短いスカートに着崩したブラウス。
ウェーブがかった真っ白な髪、白目の黒目に、真紅の瞳。
斧を杖代わりにしてなんとか立てているその女性は、僕の目からはどこからどう見ても神の僕の一員にしか見えない。
「第5位階……?」
「そ。『神の僕』の一番最下層」
ベルは粉々になった黒い板の残骸を顎でしゃくった。
「あれで一番下だと!?」
モーレッドが驚きの声を上げる。
たったの一撃であれだけ派手にふっとばされたんだ、その反応は自然なものだろう。
「でも、あんにゃに不気味な顔にする必要はにゃいと思うにゃ」
アーチェは未だにあのデザインが忘れられないのか、しかめっ面だ。
「量産型だからねー」
「量産型?」
聞き慣れない言葉だけど、意味は何となく分かる。
奴らは、『誰かの手によって作られた』存在ということだ。
「そーそー。パーツの実装を……ケチってるんだー……」
そう言い終わると同時に、ベルの体がグラリと揺れる。
「シェリー! 何をしているのですか! 早く『地下』へ!」
「あー。パウロごめんねー。……これ、ダメかもー」
ドサッ。
彼女の体は、糸の切れた人形のように床へ崩れ落ちた。
次回もお楽しみに!
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