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第77話 ベル

 夜のガランドは、昼間の喧噪が嘘のように静まり返っていた。

 街灯の魔石が、ぼんやりと道を照らしている。


 僕たちは足音を忍ばせ、街の中央にある聖堂教会へと向かった。

 石造りの立派な建物だ。

 正面の大扉は閉ざされているが、奥の礼拝堂の方から、微かに明かりが漏れているのが見えた。


「……まだ、起きているようだな」


 アズライトが小声で言う。


「正面から行くか?」


「いや。まずは様子を見よう」


 僕たちは建物の脇に回り込み、明かりの漏れる窓の下へと移動した。

 中から、話し声が聞こえる。

 どうやら、二人いるようだ。

 風の音に邪魔されて、細かい言葉が聞き取りづらい。


「……『集音モード』、起動」


 僕は左腕の端末を操作し、マイクの感度を最大まで引き上げた。

 途端に、雑音混じりだった声がすぐそばで話しているかのように鮮明になる。


『はひー、さすがに今日はヘビーだったわー』


 最初に聞こえてきたのは、気だるげな女性の声だった。


『ご苦労さまでした、シェリー』


 それに答えるのは、昼間に会った神父の声だ。


()()()らだけのときはベリアムかベルでいいってー』


『いけません。どこで聞かれているのかわからないんですよ?』


『だーいじょーぶだってー。ほら。この建物の中には誰もいないって出てるでしょー』


『……いつ見ても不思議なものですね、スマートフォン、というものは』


 その単語を聞いた瞬間、僕は飛び上がりそうになるのをこらえ、その場に踏みとどまった。


 ――『スマートフォン』。


 神のしもべたちが持つ、あの黒い板。

 つまり……教会のシスター=ベル=神の僕の一員、ということか。


 予想もしないタイミングでの大当たりだ。

 僕はざわつく心を抑えつけ、立ち上げた『メモ帳』に『少し様子を見よう』と書き、みんなに見せた。

 アズライトが頷き、モーレッドが身を乗り出し、アーチェが耳をピクピクさせている。


『昼間、見慣れない少年が『ベル』のことを知らないか、と聞いてきました』


 神父の声が続く。

 僕はどうしても『ベル』が気になってしまい、中を伺おうと窓を覗き込む。

 だが、角度が悪く、見えるのは例の神父だけだった。


『へー。でも、それがあーしの事だって決まったわけじゃないでしょー?』


『いえ、どうやら酒場やギルド、役場の方でも同様に嗅ぎ回っている人たちがいるようです』


『そっかー。じゃ、偶然ってことはなさそーねー』


『シェリー、彼らは一体……』


『ま、十中八九、あーしの追手だろーねー。下っ端にアプリで変装させてんでしょー』


 追手? 組織を裏切ったということか?


『なら、急いで逃げないと』


『いやー、そこまで嗅ぎつけられてるならもう手遅れっしょー』


『まだここが割れたと決まったわけではないでしょう!?』


『うん、まーそーなんだけどー。でもほら、まだアレも完成してないしー』


『死んでしまっては元も子もありません』


『はは。神父さんがそういうこと言うー? 死んだらカミサマの国に行けるんでしょー?』


『ベル。私は真剣ですよ。私のことは構いません。今すぐにここを出なさい』


『無理だよおー。だって、ここを離れたらあーし、充電チャージできなくなっちゃうしー』


『なんとかならないのですか』


『携帯用のバッテリーがあれば他の充電用設備ステーションまで持つけどー。あーし、持ってないしなー』


『しかし、このままでは』


『あー、やっぱバレてたみたい。教会の中に入り込んできたねー。たぶん、第5位階のザコだとは思うけどー』


 女性の声色が、少しだけ鋭くなった。


『どうするのですか』


『やるだけやってみるしかないでしょー。あーしだって死ぬのはごめんだしー。ほら、3、2、1、来るよ』


 バーン!


 カウントダウンと同時に礼拝堂の正面扉が吹き飛び、賊がなだれ込んでくる。

 それらは、異様なほど『普通』な集団だった。


「何だあれは。一般人のようだが……」


 そうか、アズライトは奴らの『擬態』を見るのは初めてか。

 普通の格好、普通の容姿。どこにでもいそうな、無個性の人々。

 唯一違いがあるとすれば、彼らの手には大剣や斧、棍棒といった相手を壊すための『武器』が握られていることだろうか。


「第2位階べリアム、発見シタ」

「裏切リ者ハ排除スル」

「排除スル。排除スル」


 無機質な声を上げて、それらは二人に襲いかかる。


「パウロ、下がってて!」


 シスター服を着崩した女性――おそらく彼女がベルだろう――が、神父の前に飛び出す。


「シェリーいけません、その体では!」


 ベルは忠告を聞き入れようともせず、手に持った黒い板をかざした。


「『衝撃ショック』!」


 バチィッ!

 なにかにぶつかったような音とともに、先頭の2体が吹き飛び、壁に張り付く。


「へっ、どーよ……うぐっ!」


 だけど、対抗できたのはその一回だけだった。


「はぁ、はぁ……! エネルギーがッ!」


 ベルは片膝をつき、呼吸が完全に乱れている。

 そしてその姿は、シスター服にストレートの黒髪という、元の外見から――

 研究者が着るような白衣にウェーブがかった白髪の女性……要は、『全くの別人の姿』に変わってしまっていた。


 そんな女性に、敵の一体が大剣を振りかぶる。


「シェリーッ!」


 神父が彼女をかばうように、二人の間に割って入った。

 だが、彼はただの人間。きっと盾にすらならず、二人まとめて――


 ってそんなこと、させるわけ無い!


「<モーレッド、行け>!」


 僕はあらかじめ作成しておいたショートカットの一つ、『個別速度バフ 1.3倍』のモーレッド版を呼びだした。


「――その言葉、待ってたぜ、隊長!」


 ガシャーン!


 派手な音を立てて窓を割って飛び込み、そのまま矢のように駆け抜け、二人を抱えながらのタックル。

 振り下ろした大剣は空を切り、間一髪で危機をやり過ごす。


「ハイ、ジョ……?」


 モーレッドはすかさず立ち上がると、二人の前に仁王立ちし、敵のヘイトを引き付ける。


「こっちだ! かかってこい、悪党めッ!」


「ハイジョ、ハイジョォオッ!」


 突如現れた邪魔者を排除せんと、敵が殺到する。

 襲いかかるのは子供の背丈ほどもある巨大な大剣。


 ――ガギィン!


 それを彼は胸当てで……受け止めきれなかった。

 変身前の貧弱な防御力では、大剣の重みに耐えられなかったのだ。


「ぐべぇっ!」


 モーレッドはボールのように吹き飛ばされ、壁に激突してずり落ちた。


「い、ってぇ……! 愛がねえんだよ、愛が! こんな攻撃じゃあ、俺の筋肉は1ミリも燃え上がらねえ!」


 モーレッドの言葉に耳を貸すこともなく、奴らはすぐに追撃の態勢に入る。


「ロイ!」


 ミアの目配せ。

 相手のリズムは崩した。今がチャンスだ。


「……みんな、出るぞ! あの二人を守るんだ!」


 僕は決断し、飛び出した。

 ミア、アーチェ、アズライトも続く。


「うおお! 一気にこっちにきやがった!」


 壁際で起き上がったモーレッドが叫んだ。

 侵入してきた敵の5体すべてがモーレッド目掛けて殺到している。

 突入時の速度が警戒度を跳ね上げたのかもしれない。


「<バーニング・フォーメーションA>!」


 僕は走りながら音声入力でショートカットを呼び出す。


 このショートカットプログラムの中身は、

 『<身体強化><モーレッド><防御力><0.1倍>』

 『<身体強化><ミア><速度1.5倍>』

 というもの。


 モーレッドにはあえて防御力を極限まで下げるデバフをかける。

 加えてミアには速度上昇、本人の『風妖精の突撃スプライト・スプリント』で極大まで加速。

 そしてモーレッドに接近、最後に――


 パァン!


 モーレッドの頬を引っぱたく。


「よっしゃああああ! キタぜ! 友情パゥワアアアァァァッ!」


 防御力が下がった状態での一撃。

 それは、彼の筋肉に『致死級のダメージ(愛)』と誤認させるトリガーとなる。


「チェーンジ・イグニッション・フォーム!!」


 カッ!

 紅蓮の光が弾け、モーレッドの胸当てが展開。

 一瞬にして全身を覆うフルプレートアーマーへと変貌する。


「<オールリセット>!」


 僕は即座にデバフを解除し、全員を通常のステータスに戻す。

 これで、最強の防御力と、最強の(物理的な)吸引力を持ったタンクの完成だ。


「さあ来い、雑魚ども! 俺の愛を受け止めろォ!」


 モーレッドが両手を広げる。

 すると、周囲にいた第5位階の戦闘員たちが、ズルズルと彼の方へ引き寄せられていく。


「何ダ!?」

「体ガ! 勝手ニ!」


 敵が一箇所に密集する。

 よし、ここがチャンスだ!


「アーチェ! フィニッシュ!」


「任せるにゃ!」


『おおっ、姐はん! 赤玉ガーネットでっか! ええもん持ってはりますなあ!』


 アーチェが構えた黄金の筒――『金食い虫の巣(ダイン・マイン)』から、甲高い声が響く。


「ホントは銀貨で済ませたかったけど、数が多いからにゃあ」


 アーチェが赤い石を放り込むと、カチリ、と小気味いい音がした。


『毎度ありぃ!』


 ガシャッ!


 黄金の筒が変形が始まった。

 筒が長くならない代わりに、筒の途中からもう一本、持ち手のようなものが生えてくる。

 あの形状は確か……。


「サブマシンガンでイチコロにゃ!」


 ニヤリと笑い、アーチェは引き金を引いた。


 ダダダダダダダダッ!!


 けたたましい破裂音。

 短い筒から、赤い光のつぶてがばら撒かれる。

 それは触れたものを砕く、純粋な衝撃の嵐だった。

 一発ごとの威力は控えめだけど、驚異的な連射性能と面制圧力。

 輝石の性能には遠く及ばなくても、実用性に優れた形態フォルム……という話だ。


「ぎゃああああああ!」


 悲鳴が重なる。

 密集していた敵は、回避することもできずに次々と倒れ伏していった。

 それと同時に、被っていた人間の擬態が剥がれ、元の姿が晒されていく。


 白いローブ。真っ白な髪。顔は不気味なデザインのお面のようなもので覆われている。

 そして、その肌の色は、やはりあの灰褐色だった――


次回からは「そもそも、神の僕ってなんなのよ」を解き明かしていくパートとなります!彼らの目的、正体がついに明かされます!お楽しみに!

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